世界情勢から見る、2017年のLGBT事情

January 1st, 2017

欧米のナショナリズムとLGBT政策

 

ここまで、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツについて解説してきましたが、こうした欧米の主要国が次々とナショナリズムに政策転換をしていくと、各国のLGBTにとってどんな影響があるでしょうか。

率直に言って、LGBT政策に関してはあまり良い方向に進むことは期待できないでしょう。

 

あまり難民の受け入れ経験がなく、周辺を海に囲まれた島国であるため近隣国からの移民も多いわけではない日本では、「社会的マイノリティ」は庇護を受ける存在ではあっても、それがそのまま平和や安全を脅かす存在という認識は薄いかもしれません。

 

しかし、移民国家であるアメリカや、政治的・経済的情勢の不安定さを抱える国々と陸続きの欧州主要国では、社会的マイノリティが国民の平和や安全を脅かす存在であるという認識を持つ層の人々も少なくありません。

加えて、これらのキリスト教徒の国々においては、その社会的マイノリティの中にキリスト教以外の宗教を信じる人々や、元々キリスト教では存在を認められていなかった同性愛者等の性的少数者もその「脅威」に含んだ上で、ナショナリズムを掲げる極右政党から攻撃対象とされる傾向があります。

 

今回、例に挙げたイギリス、アメリカ、フランス、ドイツは、どこも近年LGBTに対して寛容な態度を示して来た国々です。アメリカも、連邦最高裁判所が同性婚の禁止は違憲という判決を下し、オバマ大統領がこの判決を支持したばかりです。

 

当初トランプ次期大統領は実はLGBTフレンドリーなのではないかという憶測も飛び交いましたが、側近の人事が固まっていくにつれ、LGBTに対しても強硬な姿勢を取る人選が目立って来ています。

 

 

しかし、日本やアジアは暗い話ばかりではない

 

翻って、我が国はどうでしょうか。

LGBTビジネスや自治体のパートナーシップ制度は不発の感が否めないですが、それは裏を返せばもともとLGBTであることで身の危険を感じたり、生活に決定的な不便さを感じたりするような激しい差別が、欧米よりも少なかったという解釈をする向きも少なくありません。

同時に、これまでの日本のLGBTアクティビズムは、やや欧米信仰が強すぎたのではないかという印象を筆者は持っています。

 

これまで見てきたように、欧米と日本とでは「社会的マイノリティ」という言葉から連想するイメージや社会が示してきた態度もまったく違います。宗教観や社会的背景がまったく違うため、LGBT当事者が感じているニーズも欧米と日本とでは違ったものになるのは必然的なことです。

 

この差異を無視して、欧米はLGBT施策が進んでいて日本は遅れているからと自国の批判に終始し、「欧米を知っている自分がもっと先進的なLGBT施策を広めなければ」という宣教師的な使命感によって成立する社会運動は、そもそもその欧米がLGBTに不寛容な態度に転換したら論理的後ろ盾を失うため、非常に危うい側面を持っているものでした。

 

欧米社会が大きくナショナリズムに舵を切った今こそ、日本は日本として、欧米の制度やニーズからは自立した独自のニーズ調査や制度設計に着手して行くフェーズに到達してきているのかもしれません。

 

また、台湾では2016年暮れから同性婚を可能にするための民法改正案が審議されており、早ければ2017年の春にはアジアで初の同性婚が実現する可能性も現実味を帯びてきました。

これには、2016年に台湾が国民党から民進党に政権交代を果たしたことも大きく関係しています。

現在、台湾総統を勤める民進党の蔡英文氏は、野党時代からLGBTの政策には熱心に取り組んでおり、それを引き合いに出して敵対勢力からレズビアン疑惑をかけられたことがありました。

 

最後に、これを追求された時の蔡英文氏の反論を紹介しておきたいと思います。

 

「(自身のセクシュアリティに関して)私にそれを答える義務はない。それどころか、そういった質問が誰かを圧迫する手段に使われてはならない」

 

なんとも心強い言葉です。

 

この、欧米主要国の転換期をうまくチャンスに変えて行けるかどうか、日本やアジアのLGBTにとって2017年は正念場の年となるかもしれません。

 

 

英司/コラムニスト
広告会社の営業を経て、2010年より広報職に従事。現在は都内の某企業にて自社PR全般を担当。 LGBTとして、ゲイとして、働く者の1人として、さまざまな話題をお届け。男性同性愛者の視点から見た、話題のトピックスの解説を行っていきます。

 

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