2016/06/07

橋口亮輔 × 田亀源五郎スペシャル対談!「LGBTと映画」を語る

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橋口 その話で思い出したんですが、私は全身タイツのフェチを持つ人たち(通称:ゼンタイ)をテーマにした映画『ゼンタイ』を撮ったんですが、実際にゼンタイの方たちに会った時に、ものすごく感動したんです。

 

彼らは全身ラバーですごく奇抜な格好しているから、酒池肉林で暗がりでサカっているものすごい変態集団なのかなと思ったら…実際はすごくジェントルマンなんですよ。

 

今話題になっている都知事みたいに嘘で塗り固めている人よりも、「僕は変態なんだ!自分はラバーが好きなんだ!全身タイツが好きなんだ!!」っていう、誰になんといわれようが我が道を邁進している人たちって、ものすごくポジティブで、そこに嘘が無いんですよね。

 

しれっと嘘をついて人を貶めるようなことがなく、まっすぐで清々しい。自分が変態であることにすごく正直に生きている。

 

また、彼らは見た目は奇抜だけど誰も不幸にしていない。

例えば相手が嫌がっているにもかかわらずしつこく迫ることなど一切ない。聞いたら答えてくれるけど、それまではピシッとしていてすごく紳士。

自分は自分で好きなことをやっていて、人には迷惑をかけないっていうスポーツマンシップを持ちながら皆さん変態をなさっていて、その姿に心から感動しましたね。

 

 

田亀 私もゼンタイの友達から聞いた話によると、顔もないし、視界もないし、自分自身の境界線がなくなると。それを聞くとちょっと面白そうだなと思いましたね。

 

 

橋口 実は『ゼンタイ』の宣伝のときに、僕もゼンタイに挑戦したんです。

もうね、着てみると中が密室で、モノローグが全部自分に跳ね返ってくる不思議な感覚でした。

 

映画を撮る時に、「顔やカラダを隠して芝居したら演技は伝わらないんじゃないか」と懸念していましたが、いざ撮ってみるとより濃厚に演技が見えてきたんです。

 

例えば、普段は演技の冴えない女優がゼンタイを着ると水を得た魚のように自由にのびのびと演技をしていて、ある年配の女優さんは「カラダの線がでるから着たくないなぁ…」と言っていたのに、いざ着てみるとものすごく伸びやかになった。

 

それを見た時に思ったのが、人間っていかに顔などの「外見」に支配されている生き物なのかって感じましたね。

 

 

───今のLGBTブームについて───

 

橋口 最近何かと「LGBT」って言葉を聞きますよね。

昔は「同性愛の〜」「ゲイの〜」など言い方に苦慮していたのが、今は「LGBTの〜」とかってすらっと言えちゃいますもんね。言いやすいおしゃれなパッケージになったのかなと。

 

 

田亀 一方で「LGBT」という言葉に反発する当事者もいますよね。

90年代初頭のゲイブームの時って、当事者から「ゲイ」って言葉に強い反発を覚えた人たちを見てきました。それでもって今回「LGBT」という言葉の対しても同じような反発があって、それを見ていると「あぁ、時代は繰り返すんだな」って思いますね(笑)

単なるトレンドだと思っています。いつか収まるだろうと。

 

その昔『クルージング』が公開された時に、ゲイコミュニティの中でも意見が別れましたよね。私が映画館で観た時は、けっこう良かったなって思いました。なんでこの映画が忌み嫌われるのが未だによく分からないところがあります。

当時私は、ゲイでSMというエロを描いていたので、ゲイでリブをやる人たちから攻撃されたことがありました。

ゲイリブの人たちが、ゲイとエロを切り離す傾向にあったんです。

『クルージング』に抗議したゲイの中には、ある種「ゲイはこんな変態じゃない!」っていう、一種のゲイ差別的感情があったのではないかなと思っています。

 

ゲイの中でも、「普通を主張したがるゲイ」っていうのは昔からいて、それが、最近では「LGBT」という括りに接続されてしまっていて、それ以外のクィアの人たちから反発をくらうことがある。

 

 

橋口 反発くらうことなんてあるんだ?

 

 

田亀 けっこう身の回りで多いですね(笑)反発というか揶揄が多い。

私はそれらを見ていると、「いろいろ出てきて楽しいじゃん」で終わらせればいいのにと思いますけどね。

 

さきほど話したゲイ映画でも「今はナチュラルテイストが流行だな」って思っていて、それがゲイ映画の正統派だなんて思っていない。今の流行であって、それが目立つだけ。

世の中、色々なタイプが出てくれば出てくるほど、バラエティー豊かになって良いと私は思います。

 

 

橋口 この前ゲイの写真家の森栄喜くんにあった時に、ある写真を見せてくれてね。

白いウエディングドレス姿で国会議事堂の前で写真を撮っていた。まるで明日にも日本で同性婚が可決するかのように。それを見た時なんとも無邪気だなぁ〜と思いましたね。

 

 

田亀 私はその「無邪気さ」って割と大事なんじゃないかなって思います。

現実に即した戦略をとるのは方法論的には大事ですが、それを無邪気に信じられるポジティブさって今までなかったですよね。

 

これは『ハッシュ!』からの引用になってしまうんですけど、ペットショップでトリマーとして働いている彼なんかは、ゲイである以上、それを覚悟の上で生きている。それに対して、もう一人の彼は選択肢を狭めたくないといっていて、とても対称的な2人です。

 

あれがすごく普遍的だなと思うのは、今までゲイであることで人生の選択肢が決まっていると考える前者に対して、現在では同性婚という新たな可能性が顕在化していて、少なくとも外国ではそのように別の選択肢で生きている人たちがいる。

その可能性が日本でもあり、選択肢が増える事はいいことではないかと思っています。

 

私自身、同性婚っていう発想自体がなかったですが、世界中で同性婚合法化ニュースを見ていて、20年来のパートナーと「もしも日本で同性婚できるようになったらどうする?」という話を初めてしました。

 

私が高校時代にゲイを自覚したとき、人生の選択肢が「これしかない」と思ったのと比べると、今は選択肢が増える可能性がある。選択肢の多い方が子供にとって幸せなことは明らかですよね。

 

婚姻制度の良し悪しは別として、同性婚の可能性が生まれるかもしれないのであれば、「そんな浮かれてどうするの?」っていう冷ややかな目もありつつも、「浮かれてもいいじゃない?」って思いもありますね。

 

 

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田亀源五郎/漫画家
神奈川県出身。多摩美術大学卒業後、アートディレクター、グラフィックデザイナーを経て、漫画家に。1986年からゲイ雑誌『さぶ』を始め、『Badi』『薔薇族』『G-men』等で活躍し、今年でゲイ漫画暦30年を迎える。2014年より初めて一般誌でスタートした連載『弟の夫』は、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。

 

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橋口亮輔/映画監督
1962年7月13日生まれ。長崎県出身。
92年、初の劇場公開映画『二十才の微熱』は、劇場記録を塗り替える大ヒット記録。二作目の『渚のシンドバッド』(95’)は、ロッテルダム国際映画祭グランプリ他、数々の賞に輝いた。
人とのつながりを求めて子供を作ろうとする女性とゲイカップルの姿を描いた3作目『ハッシュ!』(02’)は、第54回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待され、世界69各国以上の国で公開。国内でも、文化庁優秀映画大賞をはじめ数々の賞を受賞。
6年振りの新作となった『ぐるりのこと。』(08’)は、女優・木村多江に数多くの女優賞を、リリー・フランキーには新人賞をもたらし、その演出力が高く評価された。
新作『恋人たち』(14’)は、第89回キネマ旬報ベストテン第1位を獲得したほか、数多くの映画賞に輝いた。

 

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