世界最大のファッションの祭典「METガラ」の今年のテーマは、ゲイカルチャーにインスパイアされた〈キャンプ〉だ。
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日本ではあまり聞きなれない言葉だが、米国のゲイカルチャーを語る上で欠かせない〈キャンプ〉について詳しく解説していこう。
〈キャンプ〉というと、一般的には自然の中で行うキャンプ(CAMP)を想像しがちだが、米ゲイコミュニティにとってのキャンプ(CAMP)は全く別の意味を持つ。
〈キャンプ〉を一言で表現するのは難しいが、「皮肉」「ユーモア」「パロディ」「誇張」「悪趣味」「芝居かかった行動&ジェスチャー」といった要素が重なった言葉だ。
ゲイの作家・評論家のサミュエル・R・ディレイニーによれば、〈キャンプ〉の語源は野営地で兵士たちに性的奉仕をする女性・売春婦をモノマネしたものから発展した言葉だという。
ちなみに使われたのはここ最近ではなく、300年以上前の17世紀にまでさかのぼる。
はじめてキャンプを使ったとされるのは1671年の俳優・劇作家のモリエールで、彼は「コメディキングのように気取って歩くことだ」と定義している。
その後、1909年にゲイの世界的作家オスカー・ワイルドが、「キャンプとは誇張された行動やジェスチャーを指す」と語った。
この一部の概念だった〈キャンプ〉を不動のものにしたのが、レズビアンの著名作家スーザン・ソンタグが著書「Camp:Notes on Fashion」にて定義し一般的なものとなった。
〈キャンプ〉は、LGBTコミュニティ、とくにドラァグクイーン文化を語る上では欠かせない言葉だ。
さきほど紹介したキャンプの意味「皮肉」「ユーモア」「パロディ」「誇張」「悪趣味」「芝居かかった行動&ジェスチャー」、そう、ドラァグクイーンこそ〈キャンプ〉な存在なのだ。
ドラァグクイーンは、ゲイ(あるいはトランスジェンダー)がド派手なファッションに身を包み、あり得ない高さのヒールを履き、ケバケバしいほどのメイクが施された異様なルックス。
そして、ディーバの曲をリップシンクするパロディを行い、パフォーマンスでは皮肉さとユーモアをあわせ持つ──まさしくキャンプの概念そのもの。
ちなみに、あまり知られていない〈ドラァグクイーン〉の語源を紹介すると、ドラァグとは”引きずる”という意味。いろんな境界線やカテゴリーを引きずり曖昧にするという意味と、引きずるほどのド派手なドレスを着用していることの2つの意味を持っている。
そしてクイーンとは、その名の通り”女王”の意味をもつが、アメリカではゲイ差別の意味としてのクイーン(オカマ、オネェ)も含まれている。あえて侮蔑語を使うことで、「オカマですが何か?」といった自虐し笑い飛ばす意味が込められているのだ。
300年前に定義された〈キャンプ〉が、現代のLGBTコミュニティを語る上で重要な言葉だということをお分かりいただけただろうか。
キャンプはドラァグクイーンだけを指す言葉ではなく、ファッションとしてのキャンプや、エンタメとしてのキャンプ、思考や概念としてのキャンプなど広範囲にわたる。
そしてファッション業界にも大きな影響を及ぼしている。
マーク・ジェイコブス、ジョン・ガリアーノ、ジャン=ポール・ゴルチエ、ヴィクター&ロルフ、最近ではジェレミー・スコット、GUCCIのアレッサンドロ・ミケーレなど、著名ゲイデザイナーたちは、〈キャンプ〉の概念を落とし込んだデザインを多数発表している。
さきほど紹介した〈キャンプ〉の定義である、非日常のド派手さ、ユーモア、皮肉を感じるファッションばかりなのが分かる。
〈キャンプ〉がファッションに与えた影響は大きく、それらを讃え、素晴らしいファッションを一同に会するというのが今回のMETのイベントなのだ。
ちなみにMETガラとは、メトロポリタン美術館(通称MET)で行われる展覧会のオープニングイベントのことを指しており、その翌日から一般公開される展覧会「Camp:Notes on Fashion」がスタートする。
世界的デザイナーのキャンプな衣装が見れるほか、日本からはコスチュームデザイナーの「トモ コイズミ」のドレスも出展。
展覧会は5月8日~9月8日までの4ヶ月間開催されるため、ぜひ期間中にニューヨークを訪れる際はメトロポリタン美術館に足を運んでみてほしい。