2016/06/15

自分らしく生きる秘訣とは? ─ブルボンヌ×安冨歩スペシャル対談─

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─「人は押さえ込めば溢れ出す」カミングアウトの重要性とは?─

 

安冨 トランスジェンダーって少ないって言われてますけど、本当は少ないんじゃないって思うんですよ。

トランスジェンダーでありながら、自分がトランスジェンダーだと気付かずに生涯を終える人が多いと思います。

 

私は幸いにも50歳過ぎてトランスジェンダーだと気付いたわけですが、もしこれがあと30年気付かなかったらそのまま死んでたわけです。気付く人が少ないから、数が少ないように見えているだけだと思います。

生まれた一番最初の「男・女」という切れ目が、人間社会の中で最強の切れ目なんですよね。そこが一番きついからこそ、なかなか気付かない。

 

 

ブルボンヌ 私は、子供の頃にナヨナヨした部分を見抜かれて、同級生から「オトコオンナ」とからかわれてました。疎外感を恐れて、自分の女性性を隠そう隠そうと引き出しにしまい込んでたんですが、引き出しがガタガタ言うんですよ。ポルターガイストみたいに(笑)。

 

おそらく他の女性性多めなゲイたちも、成長して気ごころ知れた仲間ができれば、溜め込んだものを放出するように、時には過剰にオネエな振る舞いをして発散したりする。

 

だけどゲイの世界の主流は、短いヘアスタイルや筋肉など男性性の記号こそがモテ要素なんですよね。なので、自身の中の女性性を、子どもの頃とは違ってモテるために、場所によってはまた隠したりもするんですよ。
私もプライベートでのゲイ男性としては、色恋が盛んだった30代頃までは、男性性幻想にすがって細身には似合いもしないアバクロなんかの野郎っぺーブランド服を着てたりしました。必死だなって(笑)。ゲイ男性の一部はそういう意味で内なる女性性蔑視に近い感情も持ちやすい。

 

ですが、今は主に女装パフォーマーとしておまんまを食ってる身なので、仕事中は人生で初めて「男性性を隠さなきゃ」という感覚が増したんです。

抑え込んでいた女性性を引き出しからどんどん出して使う状態なので、逆に男性性の使いどころがなくなったせいか、プライベートでは一人称が「俺」のタチのおじさんになっていったんです。いらない情報かもしれませんが(笑)。
私はかなり特殊な状況でしたが、社会に合わせて出している性の反動が溜まる面ってあるんじゃないでしょうか。

 

 

ブルボンヌ×安冨歩6

 

 

安冨 私が思うのは、「人は押さえ込めば溢れ出す」なんですよね。

人の感情を無理矢理抑えこむと、暴力となって出てきます、これが人間社会の根本原理だと思います。

 

ブルボンヌさんの場合は、抑え込んだものが受け入れやすい形で表現できているから良い方ですが、それが違う方に行った場合は、リストカットや他人への暴力、ギャンブル依存、挙句の果てには自殺に至る人もいますよね。LGBTの自殺率が高いのはそのせいだと思います。

 

無差別殺人などのひどい事件を起こす人のことをニュースなどで見るたびに、私が思うことは、「ああ、あんな風にならなくて、運が良かった」ということです。一歩間違えれば自分もそうなっていたと本当に思います。

 

 

ブルボンヌ 安冨さんがこれまで50年間抑えこんできたことって、起爆剤としてはそれぐらいの破壊力があるんですね。

そのエネルギーが、学問という良い方向に進んだっていうことなんですね。

 

 

安冨 「東大教授」というと社会的によく見えますが、実は恐ろしいことなんですよ。

 

現代社会は、抑え込んで溢れ出した力を使って、何かを起こしています。

科学技術が恐ろしい戦争を起こし、核兵器を創りだし環境を破壊する。表面的にはすばらしいことのように見えることでも、ものすごく黒いエネルギーで出来ている。

 

なので、私が恐ろしい黒いエネルギーを使い東大教授まで成れたということと、黒いエネルギーを使って無差別殺人を起こしてしまうのは、現象としては同じ構造なんですね。

 

社会全体が黒いエネルギーを活用する形でできているので、うまく黒いエネルギーを使うと、出世するわけです。そうやって、高い暗黒エネルギーを持つと社会的地位が高くなるわけで、そのため、社会の中枢に行けば行くほど、黒いもので構成されていることになります。

 

 

ブルボンヌ なるほど。その抑え込んだエネルギーの噴出先がよどんじゃうと、おかしな方向に行くんですね。

 

 

─カミングアウトの本当の目的とは?─

 

 

ブルボンヌ ゲイ&レズビアン業界でよくいわれる「カミングアウト問題」は、まとめて是か非かなんていうこと自体ナンセンスで、人それぞれ、ケースバイケースですよね。

 

 

安冨 私のカミングアウトの場合、対象に向けたカミングアウトではなく、「自分自身が出る」というカミングアウトでした。誰か対象に向けて出る(カミングアウト)ではなく、「自分じゃないものから、自分自身に向かってカミングアウトする」ということですね。

 

カミングアウトの本当の目的は、その人が日常的に生きやすくなることです。

生きやすくなる為には、順番に周りの人たちに伝えていかないといけないのでカミングアウトが必要になります。

 

 

ブルボンヌ 誰かに伝えることが目的のカミングアウトではなく、自分自身がよりよく生きる為のカミングアウトだと。まさしく今回の対談テーマである「自分らしく生きる(Be Yourself)」ですね。

 

安冨さんがおっしゃるカミングアウトこそが本来の意味なんだろうけど、ゲイ&レズビアンの場合は「友達には言えるけど、親にだけは言えない」みたいな、カミングアウトする対象に対して使うことが多いですよね。

 

 

安冨 親に言える人と言えない人がいますよね。

それはそもそも親子関係が良いか悪いかによって結果が決まると思います。親子関係が悪い中カミングアウトすると、関係は切れます。

だからカミングアウトすると、良い親は受け入れ、悪い親とは関係が切れる。それでいいわけです。

 

親であれ友人であれ、良い関係を作るには、自分自身を偽っていてはいけない。だからこそカミングアウトの必要性が出てくるんです。カミングアウトすると自分に正直になるから。

 

 

ブルボンヌ 私が思うに、カミングアウトは自分を映す鏡なんですよね。
罪の告白のように伝えられたら、相手にとっても重荷となります。
対象が社会であれ個人であれ、自分自身を卑下して愛せていなかったら、それが社会や他人に反射されて映ってしまう。

 

だからカミングアウトを無理にする必要はない。ベースとしては社会的なLGBTへの理解度も大きな要素ですから、そのための情報発信に多くの人たちが取り組んでもきました。
でもそれ以上に、本人が自分をどう思っているか、伝えたい対象との関係はどうなのかが大事だと思います。

 

尊敬する米有名ドラァグクイーンのル・ポール先生の決め台詞に「他人を愛すなら、まずは自分を愛しなさい」という言葉があるのですが、まさしくそれが全てではないでしょうか。

 

 

allstars-rupaul

米ドラァグ界のトップに君臨するカリスマ的ドラァグクイーン「ル・ポール」。80年代から様々なショービズ界で活躍し、閉鎖的にあったドラァグシーンをメインストリームに押し上げた人物。Photo via:Logo

 

 

─自分らしく生きる(Be Yourself)の秘訣とは?─

 

 

安冨 人って本当はろくでもないんですよ。表面上は良いように取り繕っていますけど、本当はみんな嫌な部分を隠して生きています。

だけどそんなろくでもない自分をいかに愛せるかが重要なんです。

「自分はこんな人間じゃない!」って無理矢理抑え込んでいると、どっかで噴き出してしまう。

 

カミングアウトの目的は良い人になることなんです。

自分自身の地下に眠らせている、嫌で恥ずかしい部分を表に陳列して「こんな私ですが受け入れてください!」って、それを受け入れてくれる人とだけ繋がれば良いと私は思います。

自分の本当の部分を隠して嫌っている限りは、幸せになれないばかりか、暴力を生み出してしまう。

 

また、ストレート男性たちは、LGBTのようにカミングアウトを要求されないので、抑圧された社会の中で自分自身を表に陳列する機会が少ないですよね。

 

例えば、LGBTがカミングアウトしやすい環境を作れば、ストレートの人たちも自分の内なるものをカミングアウトしやすい環境になります。

 

 

ブルボンヌ 今の「LGBTブーム」には、当事者からも賛否両論はありますが、大枠では、世の中に「いろんな性のカタチがあるんだ」「こういう生き方もあるんだ」と気づく人が増えるきっかけになればいい。

当事者に限らず、それが柔軟な創造力や生きがいにつながればステキだと思います。人々がもっと「自分らしく生きられる社会」に期待しています。

 

 

ブルボンヌ×安冨歩5

 

 

◼︎安冨歩/東京大学教授
京都大学出身。ロンドン大学政治経済学院、名古屋大学を経て、現在は東京大学の東洋文化研究所で教授を務める。エリート人生を歩むなか、自身のセクシャリティに葛藤し、50歳を過ぎてから「本来の自分」に気づき女性装を始める。2015年に女性装でメディアに登場し、大きな話題を呼んだ。著書『ありのままの私』他多数。
 

 

◼︎ブルボンヌ/女装パフォーマー・ライター
早稲田大学除籍。ゲイのパソコン通信ネット、女装パフォーマンス集団主宰、ゲイ雑誌『Badi』の主幹編集を経て、新宿二丁目のゲイミックスバー「Campy! Bar」のプロデュースを手掛ける。現在では女装パフォーマー、タレント、エッセイストとして、TV、ラジオ、雑誌等で幅広く活躍。

 

 

Mondo-Alfa/記事下部

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