これまでのトランスジェンダー映画といえば、性別移行やセクシャリティの葛藤に焦点を当てた作品が多いと思います。
本作はトランスジェンダーのリアルをありのまま描いた、全く新しい「トランス・コメディ」を確立してくれましたね
そういってくれるととても嬉しいですね!
これはマイヤとキキのお陰です。
最初マイヤに言われたことは、「セックスワーカーとしてしか生計を立てられないトランスジェンダーコミュニティの現状を、冷たいぐらい厳しい現実的にありのまま伝えてほしいの。だけど、それと同時にめちゃめちゃ笑いたいの!」って言われたんです。
もちろん作品において多少のユーモアは必要だと思っていましたけど、厳しい現実とコメディ的要素の両立は非常に難しかった。
なぜかというと、僕みたいなアウトサイダーがこういうユーモアを取り入れる際にリスクを伴うからです。とてもデリケートな題材なので、当事者が観た時に「バカにしてんのか?」って思われないか。
ただ、彼女たちの日常をリサーチしているうちに、普段の会話がとてもユーモアがあって面白いんですよね。彼女たちに会いに行く時は「今日も大爆笑するな」って毎回思うんです。
キキとマイヤは、悲しい話でもコメディ調に話すんですよね。それを聞いていて、現実的なドラマ要素とコメディ要素の相反するものの両立こそが彼女たちのリアルなんだと感じました。
本作では、ラズミック(*注1)の隠れた性的指向のストーリーを盛り込んでいるのが印象的でした。
彼のように世間体を気にしながら二重生活をしている人は多く存在すると思います。
ラズミックはアルメニア人ですが、実際LAには大きなアルメニアコミュニティが存在しています。
特にウエストハリウッドでは、多くのアルメニア人がタクシー運転手に従事しています。
また、アルメニアは、トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)がアメリカよりも非常に強く、ラズミックのような性的指向を持った人はクローゼットを強いられています。
また、本作に出演してくれたラズミックを含めたアルメニア人たちは本国ではとても有名なスターばかりなんです。トランスフォビアの根強い国から、トランステーマの本作に参加してくれた、このことはとても意義深いことだと思っています。
本作で伝えたメッセージとは?
毎回作品におけるテーマは違いますが、「普遍的なもの」を常に意識しています。
本作のように、トランス問題のシリアスなテーマをユーモアを持って伝えることで、より多くの人に届きやすくなると思っています。
そして人々がこの映画を観て、マイヤとキキに共感してくれたのならば、家に帰ってGoogleで調べて欲しい。
なぜ、彼女たちのような有色人種のトランスジェンダーが、セックスワーカーとしてしか生きられないのか?どうしたら彼女たちが生きやすい社会になるのか?を是非考えるキッカケになってほしいですね。