──2015年にTV番組「今夜くらべてみました」で、ゲイであることをカミングアウトしましたよね。ゲイと認識した時期はいつですか?
ゲイと気付いたのは21歳ですね。
当時、彼氏を名古屋の実家に連れて行ってママに紹介したら「ダメだよ!ゲイだったら会社で尊敬されないよ」って言われたんです。
そう言われたもんだから「じゃあいいや」ってなって。特に分かってもらう必要ないなと思いましたね。
僕の人生だし、たとえ理解されなくても、ちゃんと親孝行してれば良いかなという考えですね。
──ゲイであることに悩んだ時期はありましたか?
全くないですね(笑)
性格的にそうなのですが、100人中100人に自分のことを認めてもらうなんて無理なわけですよ。だから拒否されたらしょうがないって、割り切っています。
──日本人の多くは「人からの評価」を気にしますよね。それについてはどう思いますか?
人は人、自分は自分、ですよね。
さっきの話もそうですが、みんなに好かれる必要なんて無いと思います。
なのに、イイネが欲しいが為にSNS上ではみんなに好かれるように振る舞うのって、バカバカしいですよね?
架空の自分を作るのではなく、ありのままの自分の人生を生きようって。
──ニューヨークで同性婚されていますが、パートナーとの結婚生活はどうですか?
結婚しても何も変わらないと思っていましたが、やっぱり考え方は変わったかなぁ。今までは自分しか見ていなかったけど、家族がいることで守らなければいけないとか、色々考えるようになりましたね。
また、ニューヨークでは同性婚しているゲイカップルは多くて、日常生活で困ることはないですね。
あとは子供がいるカップルも多い。ベビーカーを引いたゲイパパも沢山いるし、ニューヨークやサンフランシスコなどの都会は、ゲイにとって暮らしやすい環境ですよね。
──多様性あふれるニューヨークですが、その中でアジア人の立場はどう感じますか?
アメリカの中でアジア人の立場は低いと思いますね。
アジア人は問題を起こさない、無害な存在と思われている。
トランプ大統領も、「メキシコ人はレイシストだー」「中東人はみんなテロリストだー」って言ってるけど、アジア人には一切触れないですからね。
それは彼や白人たちの中で、アジア人が認識されていないぐらいイメージが無いんだと思います。
──これはゲイコミュニティのジレンマだと思うのですが、「多様性を理解しよう!」っていいつつも、なんだかんだ”白人ゲイ至上主義”ですよね。
本当にそうです。
白人ゲイたちによるアジア人ゲイ差別は全然ある。
例えばジムに行くと、「あ、アジア人がいる。迷い込んじゃったのかな~?」みたいな小馬鹿にしたような視線を感じます。
ゲイアプリ上でも、「No Asian(アジア人お断り)」、「White only(白人オンリー)」なんてザラにある。
ただ、それに対していちいちムカついててもしかたないんですよ。だって人種差別する奴は馬鹿なんだから。「これは差別だよ」って、いくら教えても馬鹿は治らない。
もちろん、差別されているからといって萎縮しないで、ちゃんと主張はします。僕の場合、白人たちから「ジョージはアジア人ぽくないよね」って言われますね。
──トランプ政権の誕生によって、人種差別が表面化してきましたよね。
オバマ大統領がいた頃はヘイトスピーチは少なかったですよね。
だけどトランプに変わった途端、ヘイトスピーチが蔓延している。要するにずっと人の心にヘイト(差別的感情)はあったってことです。
今までは「差別的なことは言ってはいけない」とされていたから言わないだけであって、国のリーダーが差別的発言をすることで「あ、自分も言っていいんだ」となる。ヘイトも言論の自由(フリーダムスピーチ)だと勘違いしています。
トランプの登場によって、いきなりレイシストが増えたわけじゃなく、悪い人は元々いた、偽善者だったわけですよね。
アメリカにいて思うのは、人種差別は100年経ってもなくならない。
だったら、差別するような人は放っておいて、アジア人として誇りを持って生きるべきですよね。自分自身、アジア人にしかないエキゾチックな魅力も知っているから、常に自信を持って対等に接しています。
──日本はアメリカに比べて人種差別に対する意識は低いのかもしれません。稲木さんはアメリカに住んでいて、日本のLGBTニュースや同性婚の動きをみてどう感じますか?
日本でもLGBT権利運動は活発になったと思いますけど、まだまだ時間はかかりますよね。
日本人の多くは、ゲイは身近にいない人たち、テレビの中の特殊な人々と思っている。
ちなみに僕の場合、ゲイだってカミングアウトしているし同性婚もしているのですが、いまだにインタビューで「どんな女性がタイプですか?」て聞かれるんですよ(笑)
マジョリティからすると、現実にゲイがいるってことが、実感を伴っていないと思うんです。
日本でも同性婚などLGBTの権利がサポートされるべきですが、まだまだ時間がかかるかなとは思いますね。
──本のタイトルでもある「自分らしさ」について。
「自分らしさ」と言うのは簡単ですが、なかなか見つけられていない人も多いと思うんです。そんな人たちに稲木さんがアドバイスを送るなら?
自分らしさを見つけるための効果的な方法は、「自分を無知な場所にあえて持っていく」ことですね。無知で無力な自分を知った時、自分らしさが見えてくると思います。
自分の中でそれがニューヨークでした。
ニューヨークってすごく小さい都市なのに、世界一の都市ってことは、相当パワーがあるんですよ。
あれだけの小さな街に世界中から人が集まってきて、街中では肩がぶつかる距離で人が歩いているのに、1人ぽつりと孤独感がある。
そのときに「自分の足りないところは何だろう?」と深く考えることができました。
僕の場合はニューヨークだけど、それはどの場所でもできること。
例えば、地方にいて上京するとか、逆に都内にいて田舎に引っ越すとか。それぞれのコンフォートゾーン(心地良いエリア)ってあると思うんですよ。
そこにいると感覚が麻痺してきて見えなくなるから、一旦コンフォートゾーンから出て行くってことが必要かなって思います。
──LGBTにとっても「自分らしさ」は重要なキーワードですよね。
ミレニアル世代を代表する稲木さんから、若いゲイたちにメッセージを送るとするなら?
以前、文化服装学院で講演したときに、とある男の子がこう質問してきました。
「僕はゲイなんですけど、親にカミングアウトできなくて悩んでいます」と。
彼が言うには、カミングアウトして拒絶されたら親からの仕送りが止められるからとか、いろんな理由があると言ってました。
その時に思ったのは、「自立すること」の重要性なんですよね。
カミングアウトして、受け入れてくれる人もいるし拒絶する人もいる。
そういう人がいるのはしょうがないと思ってる。
だからこそ、仕送りやあらゆるサポートがなくても、一人で生きていける力、自立することが重要です。
あとは「家族をつくる」ことですね。
これは血の繋がりのある家族ではなく、親友とか仲の良いコミュニティとか、自分が”ファミリー”と思えるような人や場所を作ればいいと思う。
自分を受け入れてくれる環境や人は絶対見つかる。
だからこそ、学校とか、地元とか、職場とか、今いる環境が合わないなら抜け出していいと思う。
万人に好かれる必要はなくて、一部から嫌われてもいいから、自分の生きたいように生きて欲しいですね。
──では最後に、自身初の著書について一言お願いします。
今回初めての本なのですが、ニューヨーク生活で得た僕なりの「自分らしく人生を楽しむヒント」が詰まった一冊になっています。
全国の書店、またはAmazonで買えるので、気になる方は是非チェックしてくださいね。