今季大注目のゲイテーマの映画『ダンサー そして私たちは踊った』が、いよいよ2月21日(金)より劇場公開される。
映画公開に合わせて、主演を務めたレヴァン・ゲルバヒアニが来日。
本作の魅力から、同性愛に厳しいジョージアの現状など話を聞いた。
本作は、日本人にはなじみの少ない東欧の国「ジョージア」が舞台。
ジョージア民族舞踊をしている主人公・メラブは、ダンサーとして活躍するためレッスンに明け暮れる日々。しかし、ダンサーだけでは生活が厳しいため、練習後にバイトをするなど家計を助けている。
そんなある日、イケメンでダンスも上手い青年・イラクリが入団。
メラブには彼女がいたが、イラクリとの出会いをきっかけに、それまで感じたことのない同性へ惹かれていくのだった。
同性愛に厳しい保守的な国・ジョージアで、クローゼットな2人の青年の恋の行方とは──?
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メラブ役を務めた主演のレヴァン・ゲルバヒアニは、ジョージア人のコンテンポラリーダンサーで、なんと監督がインスタグラムで直接スカウトして出演が決まったという。
デビュー作にして、同性愛をテーマにした難しい役柄。
演じるにあたり葛藤があったのでは?
レヴァン「簡単ではないし難しい役柄でした。監督と主演2人でキャラクター作りについてしっかり話し合い進めていったことと、制作期間は2年とたっぷり時間はあったので、ゆっくり調整していきましたね」
ゲイ役を演じるにあたり、参考にした映画はあるのかを聞いたところ「あえて見なかった」と話すレヴァン。
「(他のゲイ映画を)見ると自分の役に合わせてしまうと思ったから、あえて見るのを避けてましたね」
本作のストーリーだけを聞くと「主人公がゲイだと気付き、イケメンと愛を育む」という、よくあるゲイテーマの映画かと思いがち。
しかし本作の舞台であるジョージアでは、同性との恋愛は命がけだ。
ジョージアは最大勢力を持つ宗教がジョージア正教というキリス
それを表すエピソードとして、劇中で民族舞踊団に所属する団体員が、ゲイだとわかった際に修道院(ゲイを“治す”矯正施設)に送り込まれた、という話が出てくる。
これについてレヴァンは、「(このエピソードは)悲しいですが実話をベースにしています。監督は撮影前にたくさんのジョージア人にインタビューしており、ジョージアのリアルな現状を映画を通して伝えています」
また、撮影秘話として、「この話のモデルになったザザ(修道院に送られたゲイ)は、実はひっそりと映画に出演しています。どのシーンかを伝えることはできないですが…」とも語ってくれた。
本作は、ジョージアでタブーの同性愛を描いたことで、劇場公開時にキリスト教系団体から猛烈なバッシングを受ける。
さらには極右団体が上映に抗議して映画館に突入を試みるなど、ジョージアで空前の騒動を巻き起こしたのだ。
ジョージアは長らく内戦が続いたこともあり、家父長制度が根強く残っている。
そこには伝統的な価値観「男は男らしく」「女は女らしく」が人々の根底にあり、それはジョージア舞踊にも表れている。
ジョージア舞踊は、リズムに合わせてダイナミックに男らしく踊るダンスだが、主人公・メラブは、その繊細さゆえに“男らしく”踊ることができず葛藤している。
「ジョージアでは『男らしさ』の価値観はものすごく大きいです。男は男らしくあれ、(思考も)マッチョ、というのが一般的です」
「僕的には(男らしさとは)悪質なマッチョ文化だと思っています。人に対して横暴なふるまいをしたり、男というだけで女性に暴行したりと、そのような古い価値観が『男らしさ』でしょう」
しかし、そんな古い価値観もレヴァンのような若い世代は徐々に変わってきていると話す。
「ジョージアの若者たちは伝統への圧力を感じています。伝統に縛られずにプレッシャーを投げ捨てたい。その一方で、良い面は残したいとも思っています」
「ネガティブなことは多々ありますが、私たちは祖国を愛しています。伝統の大事な部分は残しつつ、悪しき伝統は柔軟に変化する必要があると思っていますね」
メガホンを取ったレヴァン・アキン監督も、別のインタビューにてこう語っている。
「本作を通して、『ゲイがジョージア舞踊をやってもいいんだ』『男女の愛を歌った古く美しい曲を、同性の恋人を思い浮かべながら歌ってもいいんだ』と訴えたかったのです」
ジョージアと日本。
遠くなじみのない国かと思いきや、日本と同じ家父長制度が根強く、かつクローゼットなゲイが多いという意味では重なる部分も多い。
“男らしさ”に悩める主人公メラブが、同性への恋をキッカケに、自分らしさとは何かを見つめ、自己を解放していくストーリー。
リズミカルで耳に残るジョージア舞踊に乗せて、ぜひ主人公メラブにあなた自身を投影しながら観てみて欲しい。