制作から20年が経過したゲイテーマの映画『ミステリアス・スキン』が、このタイミングで劇場公開される。
4月25日(金)より渋谷ホワイト・シネクイントほか全国ロードショー。
『ミステリアス・スキン』は、90年代、“ニュー・クィア・シネマ”のムーブメントを牽引し、つねに時代の遥か先を見据えてきたグレッグ・アラキ氏による8本目の長編映画。
アラキ氏はゲイであることをオープンにしており、ゲイテーマの作品も数多く手がけている。
本作は、性的マイノリティとしてのリアリティと、トラウマという普遍的なテーマを見事に融合させ、今日においてもなお、多くのLGBTQ当事者にとって重要な意味を持ち続けている。
【ストーリー】
アメリカ・カンザス州の田舎町。
野球チームに所属する8歳の少年ブライアン(ブラディ・コーベット)とニール(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、コーチによる性加害を受け大きく人生を狂わされる。
精神的なショックから、自分の身に起きたことを忘れてしまったブライアンは、やがて宇宙人に誘拐されたために記憶を失ったのだと思い込むように。
一方、コーチと8歳の自分の間にあったものは「愛」だと信じるニールは、彼の影を追い求めて年上の男たちを相手に体を売りながら生きていく道を選んだ…。
「空白の記憶」から10年、ブライアンが真実を取り戻そうとするうち、手がかりとして浮かび上がってきたのは繰り返し夢に現れる一人の少年。
そして、その少年がニールであることをついに突き止めたブライアンだったが──。(以下、予告編)
本作は、性の目覚めと虐待、サバイバルと回復、そして自己認識の旅を描いている。
しかしその語り口は決して直接的ではなく、詩的でありながらも冷静で、観る者に解釈の余地と余韻を与える。
とりわけ注目すべきは、主人公ニールのセクシュアリティに対するまなざしである。彼は自らをゲイとして受け入れているが、その性的志向がトラウマと切っても切れない関係にあることが、作品全体に陰影をもたらしている。
本作は、ゲイテーマの作品であると同時に、すべての「沈黙させられた過去」を持つ人々に向けたレクイエムともいえる。
そこには「性的少数者であること」の痛みと美しさ、「被害者であること」の孤独と連帯、そして「生き延びること」の意味が詰まっている。
人は過去を変えることはできない。しかし、過去と共に生きていくことはできる。
そのための一歩として、本作は静かに、しかし確かな光を当ててくれる。
20年経っても色褪せない傑作。気になった人はぜひ映画館でチェックしてみて。