現在公開中(全国順次)の『アンモナイトの目覚め』は、『ゴッズ・オウン・カントリー』で鮮烈な長編デビューを果たしたフランシス・リー監督の新作。
ゲイであることをカミングアウトしているだけでなく、40代になってから映画監督に転じたこと、長編デビューでいきなり世界各国の映画祭で大絶賛……などなど、彼のエピソードはゲイ中年の星ともいえる人。
そこで、監督に単独インタビューを敢行しました。
――監督としてキャリアスタートはかなり遅めですね。
40歳になってから始めるなんて、ちょっと変わってるかもしれないけど、映画を作りたいという気持ちはずっと持っていた。
でも、30代までは本当に映画監督になるなんて自信がなかったし、ワーキングクラス出身だから学校で映画について学んだこともない。
40歳の誕生日が転機だったね。このまま何もアクションを起こさない人生を送るか、それとも未知の領域に行くか、って考え、監督になることを選んだんだ。
ただ、僕は映画を作るなら、自分で脚本を書きたいし、映画を座学したわけではないから自分の経験をベースにした話でないと作れない。だから、まずは短編映画を3作。
そののちに『ゴッズ・オウン・カントリー』を発表したんだ。当時は誰も見向きしてくれなかったけど……。低予算だったし、有名なキャストもいなかったからね。
でも、それが映画祭などで賞を受けたり、あれを観てくれた俳優やプロデューサーからの反響はとても大きかった。日本でも公開したんだよね?
――はい。レインボーリール東京と、都市部の特集上映でしたが、毎回満席の大絶賛でしたよ。『アンモナイトの目覚め』にあわせて、一部劇場で再映されてます。
どこの国でもいい反応が得られるのは本当にうれしいね。ファンの皆さんにお礼を言いたいよ。
――長編2作目にして、オスカー常連のケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンをキャスティングできたのは、どうやって?
『ゴッズ・オウン・カントリー』のおかげだよね。多くの俳優から次回作で使ってくれというアプローチを受けたんだけど、そういう噂はすぐに広まるものでね。『アンモナイトの目覚め』の製作に入るときには、ある程度の自由があったんだ。
でも僕としては、この作品はケイトとシアーシャが第一希望と最初から決めてた。
――それはどうして?
本当だったら歴史的に絶対に評価されていないといけないメアリー、そして夫の不理解ゆえに自分を殺しているシャーロット。この2人は絶対に世の中に認められないといけないキャラクターだ。
当て書きをしたわけではないんだけど、メアリー役はケイトにピッタリだと思っていたし、彼女の相手にはシアーシャくらい芝居がうまくないとダメ。
その2人が脚本を読んですぐにOKの返事をくれたのはうれしかったね。おかげで僕が考えたビジョンの通りに作ることが出来たんだから。
――メアリーのキャラクターはどうやって作られた?
メアリー・アニングは実在する人物だけど、物語はフィクション。
でも、当時の彼女のようなワーキングクラスの女性の間には友情を超えて恋愛関係にあった人がたくさんいたことは、史料で残っている当時の書簡を読んでいるとよくわかるんだよ。
なんせ、あのころは同性愛が禁じられていただけでなく、思い切り封建社会で女性は抑圧の中で生きていたから。
そこで、そういう抑圧下で生きて、なおかつトップの古生物学者ということを評価されずに生きていたメアリーはどういう人物だったか、ということを考えながら、少ないながらも残されている彼女の記録をもとにキャラクターを作っていった。
19世紀は、女性だけでなく、白人以外の人々、LGBTQなどマイノリティは、何かを成し遂げたとしても名を上げることが出来なかった時代。それって本当にひどいことだろ?
――当時の同性愛に関するリサーチは?
当時は男女の別があるだけで、セクシュアリティについては定義がなかった。男性同性愛だけは認識されていたけど、女性に関しては知識ゼロだったんだよ。
驚くことに当時、女性には性的快感が存在しない、とさえ医学上は言われていたんだ。そこでリサーチには、一般人の書簡を読み漁った。
そこにはその頃を生きた人たちの生の声がつづられていたから。すると、やはり女性同士の間にも恋愛が存在して、しかもかなりの数が認められたんだよ。
――メアリー・アニングを知ったのは?
以前のボーイフレンドのおかげ。彼は化石の収集が好きだったから、プレゼントに化石を贈ろうと思ったんだよ。
お金がないころだったから、まずはいろいろ調べてたんだけど、そこでメアリーのことを知った。調べれば調べるほど、これは今こそ描くべき人物じゃないか、って思ってね。
レズビアンの物語だけど、きっかけもプロセスも、僕にとってとてもパーソナルなものなんだ。
――『ゴッズ・オウン・カントリー』も監督の故郷を舞台に、かなりパーソナルな話でしたよね。
そう。結局僕は、映画の専門的な勉強をしてないから、パーソナルなことしか描くことができないんだ。それは十分理解できてる。
だから、『アンモナイトの目覚め』でもメアリーとシャーロットのキャラクターには僕の一部を反映させているんだ。メアリーはキャリアを認められないまま歳を重ねて、心を閉ざしている人。
シャーロットはメアリーの状況を一変させる存在だけど、彼女自身も心に傷を負っていて、互いに高め合い、見つめ直すことになる。
この2人のキャラクターは僕の一部でもあり、一番心引かれるところだね。
――本作がトロント映画祭などで発表されてすぐ、トッド・ヘインズの『キャロル』と比較するレビューが散見されましたが、どう感じました?
『キャロル』と並べられるのは非常にうれしい。だって、僕もあの作品は大好きだから。
でも、じつは作品に関してのレビューは、僕は一切読まないんだよ。
取材は喜んで受けるんだけど、その後は知らないでおこうと。だって、完成したものに対して何を言われても、僕はどうこうできないからね(笑)。
特にこの作品に関しては、キャスティングが発表されてから、スター2人の共演ということもあって話題になってしまって、かなりプレッシャーだったんだ。
だからこそ、外部の声は一切シャットアウトして、作ることに専念してたんだよ。そうじゃないと、作品を曲げることになる。
僕が作る作品は全てパーソナルな作品だって言ったけど、周りの言うことを聞き始めたら台無しになっちゃうじゃない(笑)
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映画『アンモナイトの目覚め』
1840年代のイギリスを舞台に、実在した古生物学者のメアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)と、裕福な化石収集家の妻シャーロット・マーチソン(シアーシャ・ローナン)の2人を描く。4月9日(金)より絶賛公開中。(全国順次公開)