「ゲイと薬物」は、無視できない関係だ。
最近欧米では、ゲイたちの「ケムセックス」が問題になっている。
ケムセックスとは、ケミカル+セックスの造語であり、日本でいうところの「キメセク」だ。
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キメセクを行う人は、コンドームを付けないリスキーなセックスをすることが多く、結果としてHIVの感染率が急増してしまう。
そんな薬物依存症の人々は、どうすればやめることができるのか?
そこで、現在開催中の「日本エイズ学会学術集会・総会」にて、興味深い講演が行われたのでシェアしたい。
講師は、精神科医の松本俊彦氏。
松本氏は国立精神・神経医療研究センターにて、薬物依存症の研究を行うプロフェッショナルだ。
最初に松本氏は、これまで多くの薬物依存者と接してきた中で、当事者たちの中にあるホンネについて語った。
「依存症の人たちは、みんなクスリを”上品に”使いたいと思っている。たまにのストレス発散として、その時を楽しむためとして一時的に使いたい。彼らは決してクスリに依存したいわけではない」と語る。
松本氏によると、薬物を使用しても依存症になるのはごく一部だと話す。
「よく薬物啓発のポスターでは『1回使うとハマる』などいった標語が多いですよね。果たして本当にそうでしょうか?」
「みなさんもご存知な通り、合法な薬物といえばお酒です。また、入院した際に使用するモルヒネ等の医療用麻薬は大変強力です。それに比べ、ストリートで売っている麻薬は(売人が儲かるため)薄めて売っています。そんな強力な麻薬や中毒性の高いアルコールに触れている我々は、中毒になっていないですよね?ではなぜ、一部の人が依存症になるのでしょうか」
本当は”一時的に”クスリを使いたい彼ら。ではなぜハマって抜け出せなくなるのか?
ここである実験を例に紹介してくれた。
薬物検証を行った「ネズミの楽園」という実験では、ネズミをある二つのグループに分類。
あらゆる規制された独房の環境で生きる「植民地ネズミの集団」と、セックスも自由であらゆる規制がない「楽園ネズミの集団」の2つ。
その2つのグループに、普通の水と、モルヒネ水を与え、どちらのグループの方がモルヒネ水を好むか観察した。
セックス三昧で自堕落な生活をしている「楽園ネズミ」の方が消費しやすいと思いきや、結果は「植民地ネズミ」たちの方が、圧倒的にモルヒネ水を消費したのだった。
この実験から、「辛い環境にいる人の方が依存症になりやすい」ということがわかっている。
薬物依存症になる人たちは「人は自分を裏切るが、クスリは自分を裏切らない」と思い、ドンドン深みにハマってしまうのだそうだ。
このことから松本氏は、薬物依存症とは、言い換えれば「安心して人に依存できない病」なのではないか、と結論づけている。
松本氏は、依存症はクスリだけではなく、身近に起こり得ることだということを、”深夜のラーメン”に置き換えて話してくれた。
「薬物依存症の人々は、周囲から『意思が弱い』と言われて続けています。しかし、これは薬物依存症だけではなく、普通の人でも起こりえる欲求ですよね?例えば私にとってそれは『深夜にラーメンを食べたくなる病』です」
「今の時間に食べてしまうとメタボになってしまう…けど食べたい!頭の中で、悪魔のささやきとの葛藤が続きます。欲求という意味では、薬物依存症のひとたちと同じです」
「その時わたしの場合は、欲求に負けないように、すぐ洗面台に行き、歯を磨き、すぐ布団に入る。これ以上欲求が押し寄せないようコントロールしています。意思を強くしよう強くしよう…と思っていると脳が欲求に負けちゃうんです」
「なにが言いたいかというと、依存症の人たちには『意思を強くするのではなく賢くなろう』と言っています。自分をコントロールできる方法を知ることです」
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