2018/08/31

「自分が幸せなカタチで生きる」70歳の伝説のクイーンが語る人生観

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ブラジルのドラァグクイーン黎明期を支えた伝説のクイーン、ディヴィーナ・ヴァレリアさんが、自身の出演作『ディヴァイン・ディーバ』のPRのために来日した。

 

70歳を超えてもなお精力的に活動するクイーン・ヴァレリア。彼女のバイタリティの秘密はどこにあるのだろうか?

映画の魅力とともに彼女が語る人生のヒントを聞いた。

 

 

ディヴィーナ・ヴァレリア

 

まずは映画について紹介。

ヴァレリアさんが出演する映画『ディヴァイン・ディーバ』は、60年代~80年代にかけて活躍した8人のドラァグクイーンを追ったドキュメンタリー映画。9月1日(土)より全国順次公開される。

 

舞台となるのは、1965年にブラジルで初めて女装ショーをスタートした「ヒバル劇場」。この劇場から伝説のクイーン8人が誕生する。

 

 

© UPSIDE DISTRIBUTION, IMP. BLUEMIND, 2017

 

一般的にドラァグクイーンとは、ゲイ男性が女装をしてクラブなどでパフォーマンスすることを指すが、今回登場する8人のクイーンは全員トランスジェンダー女性で構成されている。

イメージとしては、日本のショーパブやタイのきらびやかなニューハーフショーに近い感じだろう。

 

ただ、ショー内容は本格的な歌唱からコメディ要素も満載なので、ゲイ男性が行うドラァグクイーンのパフォーマンスと重なる部分は多い。

 

ヒバル劇場出身の8人のクイーンたちは、切磋琢磨し劇場の枠を超え、メディアを騒がすほどの人気クイーンへと成長していく。

ある者はフランスの本場キャバレーで活躍し、ある者は女優兼歌手として国際的に活躍、ある者はヌードショーをプロデュースし巨万の富を築くなど。それぞれユニークに活動しながらも、80年代以降は歳とともに第一線から退いていた。

 

時は流れ、2004年。

同劇場70周年記念にと、レジェンド8人が一堂に会した公演が行われた。その公演のタイトルが本作と同じ『ディヴァイン・ディーバ』だ。

本作は、あの伝説のショーから10年後の2014年を描く。

劇場80周年を記念し、再び彼女たちを呼び戻し『ディヴァイン・ディーバ』を再演。その舞台裏をおさめたドキュメンタリーとなっている。

 

 

© UPSIDE DISTRIBUTION, IMP. BLUEMIND, 2017

 

監督は、本作の舞台「ヒバル劇場」の創設者を祖父にもち、ブラジルアカデミー賞を3度受賞した経歴をもつ著名女優レアンドラ・レアルがメガホンを取った。

初監督となる本作は、監督自身の幼少期からの思い出の場所であり、ディーバたちのスタートの場所だ。

 

劇中では、久々に集う70歳をこえたディーバたちのパフォーマンスから舞台裏を撮影し、彼女たちの輝かしい経歴やこれまでの人生をかたる内容となっている。

 

以下予告編。

 

 

女装するだけで投獄…政治クーデター真っ只中のブラジル

彼女たちが活躍した60年代初頭~70年代のブラジルは政治クーデターの真っ只中。

当時は同性愛はおろか、街中で女装するだけで逮捕されるような時代だった。

 

「当時はショーをするときだけ女装が許されるが、街にでると女装はダメ。ショーが立て続けにある日なんかは、会場を移動する時にウィッグを取りメイクを全部落として男の格好になってからじゃないと街を歩いてはいけなかった。ホモ嫌いの警官にわざとタクシーを止められたこともあったわ」

 

そう語るヴァレリアさんは、投獄されたことで新聞の一面をにぎわせたこともあるそう。そんな危険な状態でも断固として女装をやめなかった理由とは?

 

「リスクがあるから女装をやめるとかではなく、女の姿は私のアイデンティティそのもの。自分らしくいるために女の格好を貫いただけよ」

 

ちなみにブラジルといえば、現在でもLGBTへのヘイトクライム(憎悪犯罪)件数が世界一の国。年間300人以上が殺害されているという調査があるほど。

当時は女装をしているだけで逮捕されるのであれば、一般社会からの風当たりも相当強かったのではないだろうか。

 

「当時はクーデターがありLGBTQだけでなく、一般の男女であっても生きづらい世の中だった。政治的な圧力、表現の規制があらゆるところに存在した」

「わたしはアーティストとして生きてきたから、わたしの生きている世界の中では特に差別を感じることはなかったわ。もちろん各家庭では差別や偏見はあったでしょう。現に義父はわたしのジェンダーを受け入れずに10代で家を追い出したから」

 

しかしヴァレリアさんは、個人的な経験をLGBTQの問題全体として語ることや、苦労話にはしたくないと語る。

彼女はアーティストであり、また差別・偏見のある人々とは違う階層にいるのだと話す。

「おおくのLGBTQ当事者はひどい偏見や差別を受けていたのかもしれない。ただ、我々はアーティストでエンタメの世界にいたから、偏見や差別にさらされること自体は少なかったように思うわ」

 

劇中では、ヴァレリアさんだけでなく、クイーンの一人マルケザさんも家族が女装を治すべく強制的に病院へ送り込んだり、同期クイーンのブリヂッチさんも病院でセラピーを受けさせられたりと、トラウマになりそうな障壁を多々のりこえてきた。

 

60年・70年代と今ではLGBTQをとりまく環境は大きく変わっている。この状況を当時は想像できただろうか?

 

「まっっったく想像してなかったわ!(笑)60年代からずっとあのままの状態が続くと思っていたから。だからこそ強い自分を保たなきゃ、アーティストとして自分を貫かなきゃ、って思ってたわ。昨今のLGBTQムーブメントはとても素晴らしいと思うわよ」

 

 

© UPSIDE DISTRIBUTION, IMP. BLUEMIND, 2017

 

人生は儚く短い。だからこそ自分の幸せのカタチで生きること

政治クーデターや様々な苦労を乗り越えたヴァレリアさんはもう70歳を超えている。

人生の酸いも甘いもかみわける彼女が、ジェンクシー読者へ人生のアドバイスを送ってくれた。

 

「若い人に伝えたいのは、人生で一番大事なのは幸せになることだということ。その幸せのカタチはなんでもよくて、自分が望む自分なりのカタチで生きることが大事」

 

「私たちはこの世界の通りすがりのようなもの。ある一定期間この世界で生きて、あとは去っていく。だからこそ、この儚く短い大切な自分だけの人生を、他人のために生きるとか、他人に決められた人生を生きるなんて、すごくもったいない。短い人生だからこそ、自分が幸せに感じるとおりに生きることが大事だわ」

 

厚みのある力強いメッセージ。

「自分が幸せなカタチで生きる」とは、まさにこれまでの彼女の人生を表す言葉だろう。

 

 

© UPSIDE DISTRIBUTION, IMP. BLUEMIND, 2017

 

そのほかにも名セリフが多数登場する『ディヴァイン・ディーバ』は、9月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国順次ロードショーされる。

 

地球の反対・ブラジルで生きる力強いクイーンたちの勇姿をその目に焼き付けてほしい。

 

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