こんにちは!台湾在住ライターのMaeです。
2023年の1月より、国際同性カップルの結婚もできるようになった台湾。婚姻平權(婚姻平等の権利)の実現に向けて、台湾は今も歩みを進めています。
そんな動きの中で、実際に台湾で結婚をした台日同性カップルも。
今回は、パートナーと台北で暮らし始めた一條心さんに、結婚までの道のりをお伺いしました。
「パートナーと知り合ったのは、2009年の10月頃。私が大学4年生の時に、当時日本在住だった彼とオンラインで出会ったのがきっかけでした。知り合って、今年で14年目です」
「2015年まで東京在住でしたが、私のシンガポールへの駐在が決まったことで、そこから2021年までの6年間ほど、遠距離での交際を続けていました。ただ、仕事の出張も含め、お互いに行き来したり、旅行も兼ねて他国で待ち合わせることも多かったので、最初の4年ほどはほぼ毎月、2人で会う機会を作ることができていました。シンガポールへの駐在前には2人で指輪も購入しており、“結婚できるようになればしたい!” という想いは、その頃からずっと心にありました」
ターニングポイントとなったのは、世界中で猛威を振るい始めたコロナウイルス。
同性カップル、異性カップルに関わらず、国境を超えての遠距離交際を続けていたカップルにとっては、大きな試練に。この頃を境に、一條さんの考えにも変化が生じ始めたそうです。
「コロナの影響で自由に行き来ができなくなり、2年半くらいパートナーと会えない日々が続きました。それがきっかけで、これからの人生について改めて考えるようになり、“離れ離れのまま交際を続けていくのは、やっぱりちょっと違うのでは?” と、思うようになりました。2人で台湾で暮らすことを目指して、動き始めたのはこの頃からです」
2019年に同性カップルの結婚が実現した台湾。
しかし、当時はまだ「外国人パートナー側の母国でも同性カップルが結婚できる場合にのみ、台湾でも結婚ができる」状況であったため、一條さんたちも依然として結婚できない状態が続いていました。
「そこで、私はまず就業金卡(=就業ゴールドカード)を取得することでの台湾移住を目指しました。ただ、申請自体は2021年に完了したのですが、コロナの影響で新規発給が一時停止に。受け取りができたのは2022年の春になってからで、ようやく台湾でのスタートを切れました」
2023年の春節明けからは、「外国人パートナー側の母国の制度に関わらず、台湾での結婚ができる」ように。就業金卡での台湾生活を始めていた一條さんは、結婚の準備も進めていくことになります。
「私は、すでに台湾に滞在するためのビザ(=就業金卡)を取得していたので、ひとまず結婚の手続きのみ進めることにしました。配偶者ビザは、この時点では申請していません。日本側で準備した書類は、戸籍謄本のみ。これを台湾にある台湾日本交流協会へ持って行き、婚姻要件具備證明書(=独身証明書)を申請しました。さらに、戸籍謄本と婚姻要件具備證明を持って外交部へ行き、文件證明(=書類に国際的信用力を付与するための手続き)をしてもらいました」
「婚姻届は、戶政事務所(=台湾の戸籍を管理する役所)のホームページからダウンロードしたものを活用しました。異性カップルと同性カップルでは、適用される法律の違いから、婚姻届も2種類あるので、“依司法院釋字第748號解釋施行法” と書かれている方に記入しました。また、公證人(=証人)を2名立てる必要があったので、私とパートナーのそれぞれの兄弟にお願いすることに。パスポートのコピー等の身分証を準備すれば、外国人でも公證人になることは可能でした」
「結婚の手続きには他に、外籍配偶中文姓名聲明書にも記入しました。同性カップル、異性カップルに関わらず、外国人の場合は中国語名を決める必要があるそうです。台湾の常用漢字として使われている漢字であれば、日本の名前をそのまま使うことも可能です。書類と身分証が全て準備できていれば、結婚の手続き自体は1時間ほどでスムーズに進むかと。夫の台湾の身分証裏面にはパートナーである自分の名前が記載され、その変更も即日で対応していただけました」
結婚手続きの際に一條さんたちが訪れたのは、台北の中山區にある戶政事務所。
最初はとても緊張していたそうですが、実際に窓口を訪れると「スタッフさんの対応にホッとさせられた」と語ります。
「担当してくださったスタッフさんは、同性カップルや国際カップルの結婚手続きのいずれにも非常に慣れた方で、ごくごく当たり前のこととして接してくださりました。とは言え、同性カップルの国際結婚はまだ事例が少ないこともあり、項目を1点1点、丁寧に確認しながら進めていただき、安心感がありました。私たちの結婚では、私がパートナー側の戸籍に入る形となったので、戸籍長であるパートナーの親御さんに連絡が行く旨もあらかじめ教えてくださるなど、細やかな気配りもありがたく感じました」
台湾での結婚を機に、職場でも結婚報告をした一條さん。
この時に初めて一條さんのセクシュアリティを知った方もおられたそうですが、温かく祝福してくれた場面が、深く印象にのこっているそうです。
「職場では、セクシュアリティを特に隠して過ごしていたわけではありませんが、同僚たちに対して進んでその話をしてきたわけではないので、知っていた人、なんとなく察していた人、全く知らなかった人、それぞれだったと思います。今回、会社の朝礼で結婚の報告をしたのですが、ありがたいことに、みなさん祝福してくださって、ワインを贈ってくださった方もいたのはとてもうれしかったです」
結婚した後も、生活の中で特に大きな変化は感じないという一條さん。
しかし、ご自身の心境には大きな変化があったと言います。海外で外国人として生活する上で避けては通れない「ビザ」に対する悩みが、やはり一番大きかったそうです。
「就業金卡で台湾での滞在許可を取得しましたが、“何らかの理由で更新に必要な要件を満たせなくなったらどうしよう” という想いは、やはり心の片隅にずっとあったように思います。しかし、結婚をしたことで、配偶者ビザの申請資格も得られました。そのおかげで、台湾で2人で暮らしていくことへの安心感は、格段に増したように感じています」
「また、現在暮らしている部屋はパートナーの名義で借りていますが、配偶者になったことで、パートナーにもしものことがあった時でも対応しやすくなりそうです。将来的に台湾で不動産購入を検討するタイミングが来ても、手続きや相続に関して、より安心して進められそうな気がします」
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今日は、台湾で同性パートナーとの結婚を実現した、一條心さんにお話を伺いました。
一條さんのPodcast『一條心のプライドトーク』やnoteでも、関連情報が発信されていますので、ぜひチェックしてみてくださいね!