心理学的観点での対処方法
① 主体的に行動を選択する
ここでは、差別行動を行おうとしている方、または、行ったと自覚ある方へ、お伝えしたいと思います。
差別を考えるときに大切なことは、理解が及ばない対象に対して差別意識を持つのは、良心とは関係なく人間に起こる自然現象であるということ。
差別意識が発生するのは、悪人だからではないのです。
しかし、差別意識をどのような行動として表すか(言う、書く、殴る、他)は、個人の良心や倫理観に基づきます。
差別意識を持つことを避けることはできませんし、悪いことでもありませんが、差別行動を行うかどうかは、私達は自己選択として選ぶことができます。
実は、差別行動というのは、被害を受けた人間だけでなく、加害者にとっても苦痛を与えます。
私達は善意という概念や、社会規範として良心的な社会倫理を知っています。
不快感情をもとに他人を攻撃をしてはいけない、と、教えられています。
嫌悪や恐怖を解消するために差別行動を行うことで嫌悪や恐怖は解消されますが、行動を行ったことで罪悪感や自己否定感も深層心理で発生します。
そして、その罪悪感や自己否定感によって不快感情が強化され、再び差別意識が生まれ、繰り返し差別行動が起こる。
差別は、攻撃行動をする加害者自身が、ネガティブ感情のループに囚われることでもあります。
差別は、される側も心身に傷を負い、する側も心と人生に痛みを負う、両者にとってネガティブなことなのです。
差別意識があると自覚したときや、差別行動をしていることに気づいたとき、その対処として、同調圧力や共同体意識によって差別行動をする( = みんなが差別しているから自分も差別する)のではなく、意識化された攻撃的な考えや排斥的な考えが妥当なものであるかを、一呼吸おいて、個人として深く考えることです。
信仰やセクシュアリティ、人種や職業、社会的地位など、その対象について、本当に充分な知識や情報を持っているのか、自分に問いかけてみてください。
差別によって行った行動は、必ず、行動した人自身も傷つけます。
あなたの良心と今後の人生にとって、後悔の無い行動を考えて、主体的に選ぶこと。
それが、差別によって危害を受ける人を減らし、差別行動をすることで自身が傷つくことを防ぎます。
② 恐怖を消すために戦うのではなく、恐怖を理解する
ここでは、差別行動を受けた方、または、受けるかもしれないと感じている方へ、お伝えしたいと思います。
差別と恐怖は、鶏と卵のような関係で、深いかかわりがあります。
差別意識を自覚してしまうことも怖いですし、
差別行動を受けることも、することも怖いことです。
差別においては、誰もが、恐怖心の奴隷になっています。
差別 = 恐怖は、戦い始めれば、どちらかが排除されるまで続きます。
受けた攻撃に攻撃を返して戦いを始めるだけでなく、相手を理解をすることも、とても重要なことです。
自身を攻撃する相手を理解しようとするのは、容易なことではありません。
ただ、攻撃を行うその人自身も、恐怖の奴隷になっています。
攻撃を行うその人が何を恐れているかを理解し、その恐怖が妥当ではないことを伝えることができた時、相手は恐怖や差別行動から解放されるのではないでしょうか。
しかし、攻撃をされた時に防衛することは重要です。
マイノリティであるとき、受けるかもしれない攻撃から自分を護る備えをしておくことは、これから先の4年間において、非常に重要なことです。
そして、恐怖心そのものの対処について。
恐怖を感じるとき、人は、恐怖を感じるイメージや情景が心の中にあります。
何かがあるから、人間は恐怖を感じるのです。
恐怖心への対処のひとつは、攻撃です。
では、攻撃ではない対処が何かというと、それは「自分が何を恐れているかを理解し、対策をすること」です。
恐怖を感じるイメージや情景は、そのほとんどが、まだ現実には起こっていません。
「未来に起こるかもしれない何か」を、私達は怖がります。
それが何なのかを理解し、未来にそれが起こらないように行動をするとき、恐怖心の源泉は解消されてゆきます。
例えば、私自身もゲイ(男性同性愛者)ですから、トランプ氏の大統領当選や、アメリカで発生しているヘイトスピーチやヘイトクライムに、非常に強く恐怖を感じています。
恐怖を原動力に、マイノリティへ差別行動を行い攻撃する人々へ攻撃し返したり、攻撃される前にセクシュアル・マジョリティを攻撃することは容易です。
ただ、私は同時に心理学の専門家でもあります。
私は「今回の出来事によって、私の家族やパートナー達、友人や会社の同僚たち、クライアントの方々が危害を受けるかもしれないこと」を恐れていますし、「関係性の破滅や死別によって、自分が孤独になること」を恐れています。
ですから、私の場合は、家族やパートナー達とヘイトクライムについて会話をしたり、友人や会社の同僚たちと食事をすること、クライアントの方々に被害への備えを呼びかけることで、自身の恐怖が稀釈されるということです。
恐怖は影響力の強い感情のひとつです。
しかし、自分自身の持ち物のひとつでもあります。
「他人が自分に恐怖を与えている」のではなくて「自分が恐怖を感じている」ということ、相手が何を恐れているかを理解し、自分のうちにある恐怖の源泉を理解することで、自分自身をコントロールできるということを、心に留めて頂けたらと思います。
争い、戦うだけでなく、相互理解を。
私達は誰もが等しく人間といういきものであるからこそ、それができると信じています。
カウンセリングルームP・M・R(http://www.pmr-co.com)を2007年に創業後、LGBT当事者や周辺家族に向けての心理支援や家族会の開催、企業・学校へのLGBT研修、LGBTの心理学講座の開催を行う。LGBTや心理学に関するコラムをお届けしています。