こんにちは。
ゲイの心理カウンセラー村上裕です。
先日、アメリカ大統領選挙にてドナルド・トランプ氏が当選し、それからたった1日のあいだでヘイトスピーチやヘイトクライムが増加した事実を受け、LGBT心理の専門家の1人として、これから、日本を含め世界中で起こる2つの心理的現象と、心理学的観点での対処方法についてお伝えしたいと思います。
これから世界中で起こる、2つの心理現象
① マイノリティへのヘイトが増加する
ここでは、所属欲求、集団心理、同調圧力、共同体意識、を引用したいと思います。
アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローは「人間は常に自己実現に向かって成長をするいきものである」とし、自己実現の過程では5つの欲求段階があると解釈しました。
マズローの五段階欲求説は、その効果性や実用性から、企業における人材育成や、教育現場における指導方針にも広く組み込まれています。
マズローの五段階欲求説は、1:生理的欲求、2:安全欲求、3:所属欲求、4:承認欲求、5:自己実現の欲求、の5つで構成されています。
このうちの所属欲求とは、人間はいずれかの集団に所属したいという根源的な欲求がある、ということです。
私達は、自分のソーシャル・アイデンティティを定義するために、様々な所属を持とうとします。
家族、友人、仲間、趣味、学校、職業、職場、性別、セクシュアリティ、身体機能、人種、血縁、婚姻関係、一族、地域、国籍、身体の特徴、ファッション、他にも、枚挙にいとまがないほど、私達は様々な集団の定義を持ち、なんらかの集団に所属しているはずです。
皆さんも、何らかの集団に所属することで、社会的な安全を確保したり、安心感を感じていませんか?
同時に、集団の持つちからというのは、理念の善悪とは別に、集団を構成する数が多ければ多いほど、より強力になったり、支配性を強化したりします。
また、人間には集団心理があることも知られています。
集団心理には様々な種類がありますが、共通して重要なのは「個人は集団の影響を受ける」ということです。
集団が共通して持つ概念や情報は、その集団に属する個人の考え方や価値観に影響を与えるのです。
一例では、これまで個人としてはOKと思っていた事柄が集団においてNGとされた時、それまで持っていたOKだという感じかたが揺らいだり、OKなことではなくNGなのだと価値観が転換をしたりすることが挙げられます。
朱に交われば赤くなる、という日本の諺も、心理学で言う同調圧力と解釈することもできます。
同調圧力は、集団心理の中で最も代表的な心理的効果です。
そして、共同体意識、というものがあります。
共同体意識を私の個人的な解釈で定義をすれば「人間が共通の目的のもとに、主体性を持って互いを相補的に支援しあおうとする意識」といえます。
この共同体意識という考え方は、SVR理論を初めとする様々な心理学にも根底としてあるものですが、私達は、共同体意識を実感したり発揮することで、時に、喜びを感じます。
これらの心理を踏まえれば、
人間はそもそも何らかの集団に所属したいという欲求があり、
「マイノリティへの偏見や差別意識」や「怒りや不満の感情」によって大きな集団が結成され、
同調圧力によって集団内の意識や感情はより統一化・強化され、
共同体意識によって、集団内で差別行動の促進や補助が行われる、
という現象が起こることになります。
私達は、国を超えて「世界」という集団や、「人間」という生物学的集団を共有していますから、トランプ氏の大統領当選によってアメリカで起こったヘイトスピーチ・ヘイトクライムは、国を超えて、世界中で起こることになります。
もちろん、この日本でも。
② 差別意識が顕在化する
この現象を解説するために、心理学な差別の仕組み、欲求の仕組み、を引用したいと思います。
心理学的な差別へのアプローチについて、私は、自社が開催する心理学講座や、企業や学校、地域、専門職の方々へのLGBT研修やLGBTセミナーで、必ず伝えることにしています。
自身のブログやメディアでのコラム、現在執筆している著書でも触れています。
様々なシーンで差別と心理学について触れているのは、差別はグローバルな難しい問題であると同時に、とてもシンプルな事象でもあるからです。
差別という現象と心理学的な仕組みを知ることで、人は、自分自身を自制できると信じています。
しばしば、理解と差別は対照的な言葉として使われますが、実際には、理解の反対語は「無関心」で、差別は人と人との関わりのひとつと定義されています。
差別は、ある対象に対する関心がどのように現れるかのひとつであり、理解と同列にある行いです。
差別とは、理解という行いと同様に、人と人とが出逢い、関係性を構築していく過程で起こる事象のひとつなのです。
差別についてダイレクトに取り組んでいるのは社会心理学の分野ですが、差別に対するアプローチを建設的に考えようとするとき、とても大切なのは「差別意識」と「差別行動」を分離して考えるということです。
心理学において「差別意識」は、誰もが持つ、あたりまえのものです。
人間が持つ認知の仕組みによって、私達は、充分な情報を持たない対象に注目する時、その対象を理解するために、足りない情報をよく似た他の何かから想像で補ったり、根拠のない空想で補います。
この「想像や空想で補われた、正確ではないイメージ」を偏見と呼びます。
この偏見という現象は、望んで注目する場合だけでなく、ニュースなどでなかば強制的に情報が目や耳に入り、注目せざるを得ない時も同様に起こります。
偏見がつくられた後、そのイメージに対して、快(喜びや楽しさ等)や不快の感情(嫌悪や恐怖)が瞬間的に発生します。
この感情に対して、接近欲求(もっと知りたい、近づきたい)や回避欲求(遠ざけたい、距離を置きたい)が発生しますが、接近欲求や回避欲求が満たせない時、人間は3つの反応を起こします。
1:攻撃、2:逃避、3:防衛(防衛機制)、の3つです。
ここまでの反応を、人間の脳は反射的に1秒以下で行います。
不快感情によって起こされる3つの反応のうち、攻撃が具体的な行動となったとき、ヘイトスピーチやヘイトクライムが発生します。
攻撃を行動化しない人々は、逃避や防衛機制(の一部)によって、無関心でいることを無意識に選択します。
つまり、
「想像や空想で補われて形成されたイメージ(偏見)によって不快感情を感じるとき、排斥的な価値観を働かせること」が差別意識の正体で、
「差別意識によって不快感情を感じさせる対象への、肉体的・精神的・経済的な排斥行為や暴力」が差別行動なのです。
ここで重要なことは、差別意識は誰にでも発生する、自然現象的なものであるということです。
対象に対する充分な知識や情報を持たないまま、これまでは注目することのなかった情報に触れる機会が多くなることで、偏見がうまれる機会が多くなり、差別意識が形成される機会も多くなります。
マイノリティとされる集団は、「偏った情報」や「不充分な情報」が発信されることが多いため、マイノリティに注目する機会が多くなるということは、これまで差別意識が顕在化していなかった人々が、明確に差別意識を自覚する機会が多くなるということでもあります。
差別意識を自覚した人々が、ニュースで報道される差別行動を見聞きすることで具体的な行動の指針を獲得し、集団心理や共同体意識によって、差別行動が促進・強化される。
無関心でいることで攻撃行動に加わらなかった人々が、同調心理によって、行動化をし始めるのです。
アメリカという先進国の地位や、大統領という職務の価値がブランディングとなり、差別行動は国を超えてより正当化され、促進されます。
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