──今後、歌を通してコミュニティに伝えていきたいメッセージはありますか?
僕自身、自分がLGBTコミュニティの代表者、代弁者ではないので、政治色のある歌やメッセージ性の強い作品を作ることはしていないんです。
だけど、自分たちコミュニティの感じる痛みを歌で描写することはできます。
僕の歌の切っ先があるとしたら、それはLGBTコミュニティへ向けたものではなく、マジョリティの社会に向けられていると思います。
これからも、自分自身のことを詠いながら、マジョリティの社会に気づきを与えられる作品ができたらいいなと思っています。
──話を代わりますが、現在歌人として活動しながらも、台湾で会社を経営されているそうですね。
有名な抹茶店「辻利」の海外展開を行う会社を経営していて、台湾を拠点に全世界で約30店舗ほど運営しています。
今は台湾と日本を行き来する生活をしていますね。
台湾に移り住んだことで分かったことは、日本の保守性です。
同じアジアの儒教的な家父長制の文化のなかで、台湾はアジアの中で最も民主的な国です。
特に社会制度は日本よりもはるかに進んでいる部分が多い。
台湾の国会議員の女性比率は33%を超えていますが、日本なんて10%とかですからね。
また現在の総統は女性ですし、少数者や弱者にとってとても民主的な国ですよね。
──台湾はアジア一のLGBTフレンドリーといわれていますが、実際に住んでみてどうですか?
LGBTに関していえば、日本より遥か先を行くアジア随一のリーディングカントリーだと思います。
でも、日本も本来であればLGBTフレンドリーだったはず。
平安時代の古今和歌集では、同性の恋人へ歌う文化が普通にあったし、戦国時代の衆道文化(男色)もあったし、それが江戸時代では町人文化にまでなりました。
本来であれば同性愛に寛容だったはずの日本が、明治になって変わってしまった。
そんな今の保守的な日本に比べて、台湾はとてもLGBTフレンドリーだと気付かされます。
特に台北市はとても暮らしやすいですし、人々の暖かさを感じます。
ちなみにうちの会社では、毎年台湾のLGBTプライドに協賛していて、今年はパレードにも参加する予定です。
毎年プライドウィークには、うちのブランドのロゴがレインボーカラーになったり、フェイスブックのファンページでも、社長としてプライドへのメッセージを掲載しています。
僕がよくいうのは、『抹茶は愛の飲み物』なんですよね。
茶室の中では誰もが平等なんです。
千利休の時代から、茶室の中では秀吉と利休は対等であり、貧富や貴賎、セクシャリティがどうであれ、一杯のお茶の前ではあらゆる人が平等である。
そういったメッセージを毎年プライド時に発信するようにしています。
──日本文化である「抹茶」の魅力を世界に広めつつ、歌人としても活躍されているとは素晴らしいですね。
台湾には永住権もあるので拠点なのは変わらないですが、日本も大好きなので、行ったり来たりの生活にしています。
歌人としては、これからも台湾にいながら日本の社会を描写していきたい。
今回の受賞もあり、初の歌集を来年に出したいと思っています。
また、『短歌研究 10月号』(9月21日発売)に、受賞後第一作が掲載される予定です。
受賞後第一作は歌人としての実力が問われるので、ぜひ期待していてください。