「ラッシュ」を扱った裁判が6月18日に千葉地裁で行われ、無実を主張した被告の訴えは棄却された。
これは日本ではじめての「ラッシュ」を争点にした裁判。
被告のHIDEさん(50歳代男性・仮名)は、2015年にラッシュを海外から個人輸入した後、警察の家宅捜索をうけ罪にとわれていた。
公務員だったが、職場に知られ懲戒免職をうけてしまう。
HIDEさんは起訴され懲役1年6ヶ月の求刑に。「
しかし判決では、被告の主張は棄却され「懲役1年2ヶ月 執行猶予3年」の有罪となった。
ここで簡単に「ラッシュ」について説明したい。
「ラッシュ」とは、亜硝酸イソブチル、亜硝酸エステルなど、亜硝酸系の6種類のことをさしている。(ラッシュは日本での通称名。海外では「Poppersと呼ばれている」)
鼻から吸うことで、酒に酔ったような多幸感を感じることから、主にゲイコミュニティで使われているセックスドラッグだ。
以前は全国のゲイショップや通販で気軽に手に入るアイテムだったが、2007年に薬事法の改正で「指定薬物」となり販売が禁止に。
つづく2014年には「指定薬物」の罰則が強化されたことにより、個人の使用・所持を禁止。2015年には「関税法改正」で海外からの個人輸入も厳しく罰則対象となった。
現在では、所持、使用、販売、輸入のすべてが禁止されている。
もし犯せば、最高で5年以下の懲役および500万円以下の罰金に処されるという、とても重い罰をうける。
今回の裁判で被告は「害の少ないラッシュを指定薬物としたのは、
これに対し、判決文では「指定薬物であることは争いようのない事実。亜硝酸イソブチルは中枢神経に作用し、保健衛生上の害をおよぼすもの。これは厚労省の審議会で決定済みである」とのべ、有罪判決を言いわたした。
判決文では、「健康上の害がある」と断言しているが、直接的な害については軽度(頭痛、吐き気など)と認めつつ、主に間接的な害(後に重度なドラッグにつながる等)を理由とした。
弁護を担当した森野弁護士によれば、規制した当時、厚労省がひらいた専門家会議にて「なにを指定薬物にするのか」決める際に、当時の専門家たちの判断に合理性がなかったのでは、と指摘している。
「指定薬物」の薬物は中枢神経への害がさまざまな研究で明らかになっているが、ラッシュだけ、程度がかなり低いと主張した。
それを裏付けるように、最近のオーストラリアの研究においても「ラッシュの害はほぼ無い」という結果がでている。(詳しくはこちら)
そして、世界的にみればラッシュで逮捕している国はほとんどない。
他のアジア(台湾、韓国)などで、一部販売規制はあるものの、重い処罰をうけることはほぼない。
そして、イギリス、オーストラリア、アメリカにおいても、一部販売規制や、薬局等で「処方箋」として買えるようになっており、こちらも懲罰化されていない。
ラッシュを使うのはほぼゲイコミュニティのため、その逮捕実態は闇につつまれている。
しかしながら、ラッシュで人生が狂ったゲイたちはかなり多いと予測できる。
たとえば、規制された2015年、関税で検挙される指定薬物のうち9割がラッシュだったいう。
さらに森野弁護士によると、今ではIPアドレスで簡単にネット履歴がたどれてしまうため、過去にSNS、掲示板経由で逮捕されるケースもあるという。
「ラッシュによって逮捕・勾留されることがあり、80万もの罰金を払わされた人もいます。また、過去に掲示板で『ラッシュあり』の書き込みをした人が捜査されるケースもあります」
「その人は実際に使っていなくとも、セックスアピールとして“アリ”と書いていた、いわゆるセックスにおけるファンタジーですよね。これでも捜査、罰を受けるというのは明らかに行き過ぎています」
そのほか、今回のHIDEさんのように職場を懲戒免職されたり、精神的に追い詰められた挙句に自殺をする人もでており、「ラッシュでそれほど厳しい社会的制裁を受けるべきなのか?」は疑問が残る。
森野弁護士は、「ラッシュを使用しただけで重い刑罰を与えるのではなく、(海外のように)買える場所を限定的にする、免許制にする、未成年は買えないといった年齢制限を設けるなど、いろんなやり方があるはずです」とのべた。
今回の有罪判決をうけて、HIDEさんは控訴するつもりだという。
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