推理小説の世界的権威である英「ダガー賞」にて、レズビアンを公言している王谷晶(おうたに あきら)さんの小説『ババヤガの夜』が受賞。
日本人初の快挙、かつクィアな作家の受賞としても大きな話題を呼んでいる。
受賞作『ババヤガの夜』は、極道の娘の護衛を務める主人公の女性が、彼女との絆を深めながら社会の裏側へと分け入っていく物語。
暴力と連帯(シスターフッド)を描いた作品として、2020年に『文藝』で発表されて以降、読者の心を確実に打ち抜いてきた。
英国推理作家協会は受賞理由として「漫画のような日本のヤクザ描写と、残酷なまでのバイオレンスを通じて、人間の内面に迫るラブストーリーを創出している」とコメントを発表。
王谷晶さんは1981年生まれ。
オタクとしてBL文化に親しみ、10代からクィア文学を読み漁ってきた。作家デビュー後は『完璧じゃない、あたしたち』など女性同士の関係を主題とした作品で知られ、クィアな視点を一貫して貫いてきた。
一方で、王谷自身は「ミステリ専門作家ではない」と語るように、ジャンルに縛られない作風を特徴としている。自身の“曖昧さ”を肯定し、ラベリングできない関係性や存在の価値を描き続けている点が、海外での評価につながったのだろう。
授賞式でのスピーチも、王谷らしさが光っていた。
ユーモアと感謝、そして社会への視座を込め、「曖昧であることが世界をよくする」と語り、さらには「暴力を描くフィクションだからこそ、現実の平和を望む必要がある」と訴えた。これはフィクションに命を吹き込む者としての、強く静かな信念である。
翻訳者のサム・ベットもまた、本作を「ジャンルのルールを裏返し、紙面に映画のような生命力を与えた」と評した。任侠、ロードムービー、バディもの──そうした枠組みを借りながら、まったく新しい物語が立ち上がっている点に注目すべきである。
本作はジャンル横断的でクィアな語りが、国境を越えて評価されたことは、LGBTQコミュニティにとっても大きな意味を持つ。主流から“はみ出した”物語が、いま新たな主流をつくろうとしているのだ。
『ババヤガの夜』は絶賛発売中。
この夏、クィアな衝動と文学の力に触れたい人はぜひチェックしてみて。