ここ数年、LGBT向け、ゲイ向けサービスが多く登場している。
LGBTの為の求人サイト「ジョブレインボー」もそうだ。
国内企業~外資、中小〜大企業まで300社以上のLGBTフレンドリーな企業情報と求人を扱う日本最大の求人サイトで、3月よりリニューアルオープンする。
今の時代ならではの新サービスだが、そもそもLGBTやゲイ向け求人サービスって本当に必要なのだろうか??そんな疑問を運営会社に直接聞いてみた。
LGBT向け求人サイト「ジョブレインボー」を運営する(株)JobRainbowは若手が集うネットベンチャー企業。なぜLGBTに向けた求人サイトを作ろうと思ったのだろうか?
代表をつとめる星さんは、見た目がフェミニンなせいか、高校時代に「女々しい」「オカマ」などいじめを受け不登校になる。学校に行くふりをして近くのネットカフェに通い、ネットゲームに明け暮れる暗い青春時代を過ごしたそうだ。
いじめを受けた経験から、「LGBTのための居場所を作りたい」と思い、立教大学に進学したのちLGBTサークルの代表を務めた。
そこで、あるトランスジェンダー女性と出会う。
彼女は成績もよく、人当たりの良い性格で周りから好かれる存在だったが、就活時期に入り、トランスジェンダーであることを理由に面接で帰らされるなど、就職が困難という壁にぶち当たる。
ニューハーフヘルスで働いて手術費用を稼いでおり、結局、就職できないからと大学も中退してしまったという。
「頭が良くハツラツとした性格だった彼女なので、就職すればものすごく優秀な人材になったはずなのに…とても悲しくなりました。その時、いくら本人に能力があっても、ジェンダーやセクシュアリティが原因で就職できないことは重大な問題なのだと感じました」
「もし彼女がLGBTフレンドリーな会社があるという事実を知っていれば、人生が変わったかもしれない。だからこそ、正しい企業情報が掲載されているLGBTフレンドリーな企業だけを集めた求人サイトを作りたかったんです」星さんは力強い口調で語った。
ここで気になるのが、たしかにトランスジェンダーの方は、自身の望む外見やトイレなどで、仕事上の困難を抱える人が多い。
では果たしてゲイはどうだろうか?
これについて星さんは「職場で小さなウソをつくことに慣れているゲイは多い」と話す。
「ゲイ向け求人というと”性の問題を職場に持ち込んでいるのでは?”といったご指摘もあるのですが、職場において、同僚や上司から、恋人や家族について聞かれることは頻繁にありますよね。『家で妻と子供が待っている』『週末は彼女と〇〇して過ごした』など。1日8時間、週40時間働いていて、家族や友人よりも職場で過ごす人間関係の方が長いため、ゲイは小さなウソをつき続けていると心が疲弊し精神的に塞ぎ込んでしまうことも。実際ゲイの方でメンタルヘルスが悪化する方は統計的にも多いです」
たしかに、「会社は仕事をする場所」というのは当然なのだが、なんだかんだ、みんなプライベートな話をしている。
例えば、同僚や上司から「彼女は?結婚は?子供は?」といった些細なものから、「どこどこの部署の〇〇さん可愛いよね」「アイドル/AV女優だったら誰がいい?」「今度合コンセッティングしたから」など性的にヘビーなもの、さらには風俗の同行といったキツイものまで…仕事以外にズケズケとプライベートに入られた経験のある人は少なくないはず。
それに加えて、「あいつホモなんじゃないか(笑)」といったホモネタが蔓延している職場であればなおさら居心地が悪い。
「実際にジョブレインボーを通じてLGBTフレンドリー企業に入社したゲイの方たちに話を聞くと、最初は半信半疑だったけれども転職してよかった!という声を聞いています。『それまでは仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けていたけど、カミングアウトしたことで職場の人間関係が良くなった』など。仕事はチームワークなので、人間関係が良好になることは生産性の向上にもつながります」
これまで多くのゲイと企業をマッチングさせてきた経験から、星さんの口調は確信的だ。
日本では「ゲイは隠すべきもの=クローゼット」という概念が当たり前にある。
そう考えると、1週間のほとんど、いや人生のほとんどを職場で過ごすのであれば、風通しの良い環境で働く方が良いに決まっている。
LGBT向け求人サイトであるが、カミングアウトの有無は個人の自由だ。
「もちろん、カミングアウトはしたい方だけするというスタンスです。セクシュアリティは非公開に設定できますし、個別に面接時だけ、人事だけ、上司だけ、部署だけなど、いろいろなカミングアウトの選択ができます」
「あとはよく誤解されがちなのですが、企業側はその人がLGBTだから取りたいわけではなく、最も重要なのは『自社にマッチしている人材かどうか』です。当たり前といえば当たり前ですよね。じゃあ何をもってLGBTフレンドリーかというと、”LGBTであることがマイナスには働かない”、”人を人として尊敬できる会社”ということなんです」
日本のゲイたちは、職場でカミングアウトしたいと願う人はそう多くはない。しかし今よりも風通しの良い環境で働きたいと願う人は多い。
LGBTフレンドリー企業の多くは、LGBTだけではないあらゆる多様性(女性活躍、障害者雇用、外国人雇用、セクハラ撤廃など)に配慮した会社だという。
星さんは続けて、現代人の価値観の変化についてもこう語る。
「いまの人は会社を選ぶ際に、単純に給与がいいとか、福利厚生の良さだけではなく『自己実現』を求めている人が多いように感じます。以前のようなプライベートを犠牲にして仕事をするのではなく、『ライフスタイルを充実させるために、仕事を充実する』という新しい価値観に変わってきています」
ジョブレインボーでは3月1日よりサイトが大幅リニューアルオープンし、使いやすく進化。同社のデザイナー・横山さんは、新サイトについてこう話す。
「リニューアルでは特にデザイン性にこだわりました。みんなが使いやすいデザインで、リクナビ、マイナビなど大手の就活サービスにも負けないクオリティに仕上がっています」
「特徴的な機能としては、24項目の働きやすさチェック項目から自分にあったものが選べるんです。例えば、同性パートナーへの福利厚生があるか、カミングアウトしている社員がいるのか、私服OKや今後ヒゲOKといったものを追加して行きますし、幅広いです(笑)」
「LGBTフレンドリーな求人サイトというよりは、自分らしく働ける職場を選べるという意味で”自分フレンドリー”な求人サイトだと思っています」
そんなジョブレインボーでは、3月30日(土)に、東京・渋谷「ヒカリエ」で就活生や転職活動中の社会人に向けた合同説明会を開催するそうだ。
マッキンゼー、モルガン・スタンレー、セールスフォースといった外資系大手から、ソフトバンク、丸井グループ、日の丸交通といった国内企業が集い、来場者800人を想定する大規模なものだ。
「今はどこの企業もいい人材を欲しがっている売り手市場」と話す星さん。求職者にチャンスがあるのは間違いない。
“自分らしく”とは使い古された言葉だが、仕事において自分らしく生き生きと働ける環境は重要だ。
従来の「仕事のためにプライベートを犠牲にする」から、「ゲイライフを充実させるために、仕事を充実させる」といった新しい価値観が今後スタンダードになるのかもしれない。