Photo : Andrew Haigh
本年度アカデミー賞にノミネートされている話題作『さざなみ』が、2016年4月9日(土)に劇場公開される。
本作のメガホンを取ったのは、ゲイ映画『ウィークエンド』『LOOKING』で知られるオープンリーゲイのアンドリュー・ヘイ監督だ。
最新作『さざなみ』は、前作からは想像付かない、結婚生活45年目を迎えた熟年夫婦の危機を描く衝撃作。
そんな監督に、『さざなみ』の見所や、先日発表された故アレキサンダー・マックイーン伝記映画に至るまでインタビューを行った。
アンドリュー・ヘイ監督(Andrew Haigh)
イギリス人映画監督・脚本家。42歳。
ゲイの青年二人のラブストーリーを描いた前作『ウィークエンド(2011)』にて、各国で数多くの賞を受賞し、日本でも東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され喝采を浴びた。
昨年には、サンフランシスコに住むゲイ達の友情を描いた米HBOドラマ『LOOKING』で人気を博す。また先日、故アレキサンダー・マックイーンの伝記映画でメガホンを取ることが発表され更なる注目を集めている。
映画『さざなみ』
『さざなみ』は、結婚生活45年目を迎えた熟年夫婦の危機を描く作品。
45年という歳月を共にしながらも、たった1通の手紙で夫婦関係に亀裂が入りゆらぐ姿から、結婚観や恋愛観の埋められない溝を突き付けられる衝撃作。
大女優シャーロット・ランプリング、トム・コートネイが熟年夫婦を演じ、その円熟した演技で、ベルリン国際映画祭の主演女優賞・主演男優賞をW受賞する快挙を成し遂げている。
本作は、デイヴィッド・コンスタンティンの短編小説がベースになっていると聞きしましたが、どのように脚色をされたのでしょうか?
アンドリュー・ヘイ監督:原作は12ページの短いストーリーで、「死体が見つかり、登場人物たちの感情が変化していく」という、基本的な枠組みは本作と同じです。
ですが、原作は2人の視点で描いているところを、本作は女性の視点(主人公のケイト)のみで描いています。
本作では、ケイトの内なる感情の激しさとは対象的に、終始穏やかで美しい映像で綴られています。それが一種の不気味さというか、恐ろしさを感じました。
この作品は、感情の抑圧をする人たちの物語です。
彼らは感情を押さえ込みながらも、表にはその感情を出さない。それを映像でも反映させています。なので、あまり編集をせずに、サウンドも抑えて作っています。
あまり編集をしすぎないという意味では、より登場人物にフォーカスした作品になりました。2人の目線を、作品を観ている人に身近に感じてもらえるようにしています。
シャーロット・ランプリングとトム・コートネイの円熟した演技が素晴らしかったです。2人の演技についてどのような感想をお持ちですか?
2人とも本当に素晴らしい演技を見せてくれました。
彼らはとても自然で、立ち振る舞いに優れています。そして、映画がどういうものかを把握しています。
おかげで、私は2人を撮ることだけに集中できました。
一般的に、長年の関係を育むカップルは、そうではないカップルに比べ良いとされる傾向があります。しかし本作では、年月による愛の深度に疑問を呈しています。
そうですね。愛というものは非常に複雑です。
誰かと出会って恋愛関係になることも難しいし、それを維持することもまた難しい。
でもみんな変わっていくし、成長していきます。そして、一つのものとして成立したいとする想いが常にありますね。
通常、歳をとればとるほど、様々な面で「成熟した」と感じますが、本作では2人がまだ成長過程にあるように見受けられます。
そうですね。人は年齢を重ねながら発展していきますが、アイデンティティや恋愛観は根本的には変わらないでしょう。
しかし、我々は常に進化していて、それに伴って恋愛の関係性も変化します。
登場する2人は、日々のルーティンの中に埋没しています。私が思うに、彼らは人生のあらゆる疑問にぶつかる度、それを解決してこなかったような気がします。
前作『ウィークエンド』では、ゲイの青年の2日間の濃厚な関係を描いていましたが、本作では全く逆の熟年カップルを描いています。
2つとも愛について描かれた作品ですが、その対象的なシチュエーションがとても興味深いです。
確かに2つの作品はとても似ています。若いゲイのカップルと、長い間結婚した熟年カップルです。
状況は異なる2作品ですが、彼らが心の中で願っているのは同じことです。それは『愛への欲求』です。それは、みんなが欲していて、複雑でとても難しいものです。
この『愛への欲求』ですが、それは誰も本当はわからなくて、ずっと探し続けるものだと思います。
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