4月公開予定のLGBT映画『パレードへようこそ』の公開を記念した、LGBTシンポジウムが3月18日に明治学院大学で行われた。
今回は映画の先行試写に加え、LGBT著名人と明治学院大学の学生達とシンポジウムを開催。
『LGBTもありのままでオトナになれる社会へ』をテーマに、渋谷区同性パートナー条例~来月の東京レインボープライドまで、日本のLGBTを巡る熱いトークショーが展開された。
◼︎シンポジウム登壇者
石川大我(前豊島区議会議員)
宮地基(明治学院大学法学部教授)
小川チガ(レズビアンイベント「GOLD FINGER」主催)
山縣真矢 (東京レインボープライド共同代表)
倉光ちひろ(明治学院大学 LGBTサークル「カラフル」)
杉山文野(東京レインボープライド共同代表)
関谷隼人(特定非営利活動法人ReBit 副代表理事)
◼︎映画『パレードへようこそ』
STORY/1984年、不況に揺れるイギリス。サッチャー首相が発表した炭坑閉鎖案に抗議するストライキを見たマークは、炭坑労働者とその家族を支援するために、“LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)”を立ち上げ、募金活動を行うことにした。
募金先に決定したのは、田舎の炭坑町ウェールズ。ゲイ&レズビアンと、田舎街の炭鉱夫たち。まさに水と油の両者は、お互い牽制し合うも次第に心を開き始め、困難に立ち向かっていくのだが──。
LGBTと田舎町の炭鉱夫たちの助け合いを描く感動のLGBT映画。
◼︎映画試写を観ての感想
山縣:これでパレードが盛り上がるぞ!と思える素晴らしい映画でした。
杉山:僕はそもそも、トランスジェンダーとLGのつながりはもともと感じていませんでした。最初はパレードもゲイ&レズビアンの人権活動家のものと思って結びつきをあまり感じなかったですが、パレードに参加してみたらこんなに楽しいんだ!フェスティバルにしたらもっといいかもと思いました。ただ、こういう映画を見るとやっぱり活動あってこそなんだなと思いますね。
倉光:最初、映画見た時は感動しすぎて言葉が出なかったです。LGBTに対して否定的な人が多かったり、隠れの人も、映画が進むにつれ受け入れてもらえる環境が整い、カミングアウトできる場ができる、受け入れてもらえる環境ってほんとに大事だなと思いました。渋谷のヘイトスピーチなど日本でもありますが、映画の中ではパレードや支援に関してお互いに意見を潰し合うのでなく、意見を聞いた上で「認められる」「認められない」と話し合う、共存するシーンが多くて私達も見習うべきだなと思いましたね。
関谷:どういう経緯でパレードができたのか知らなかった。行くと楽しめる場だと思っていたが、その成り立ちに感動しました。勉強にもなったしいろんなことを考えて動いてきた歴史があり、今のパレードがあるんだなと思いました。
チガ:私は86年~87年にロンドンにいました。サッチャー政権で厳しい時代とかあまり知らず、当時付き合っていた彼女にふられ、やけでロンドンかパリに行こうと思ってました。パキスタン航空の格安のチケット(22万円)、南回りカラチ経由で36時間かけて行きました。途中アジア人ばかりで本当にイギリスに行くんだろうかと不安になりながら…。
ルームシェアしたところで初日に、スコットランドの女の子と飲んでいたら突然泣き出して「どうしたの?」と聞いたら「彼女に振られたの~」「えー私もレズビアンよ」と盛り上がりましたね!
バイト先でも、70代のオーナーにご飯食べながら「チガ、君にはBFがいるの?GFなの?」とふつうに聞かれて感動したことを覚えています。
◼︎日本のパレードについて
石川:最後のパレードのシーンは印象的でしたが、日本のパレードは来月4月下旬を予定していますね。
山:日本でパレードが初開催されたのは1994年8月。現在の東京レインボープライドになったのは2011年で今年は4回目。4月25日、26日です!
杉:去年パレードを行ったあと、どうしたらもっと盛り上がるかなと話した時に、パレード1日だけするよりも、もう少しフェスティバルっぽくしたほうが敷居が下がるのでは?と考えました。「東京レインボーウィーク」と「東京レインボープライド」というふたつの団体があったがややこしいので今年からひとつにしましょうと「東京レインボープライド」になりましたね。
石:本当に最近は沿道がフレンドリーになったのを感じます。10年位前はびくびくしながら固まって歩いていたイメージが、2年くらい前からハイタッチしてくれたり、笑顔が増えて、赤ん坊や家族連れも楽しんでくれる雰囲気があってだいぶ変わってきました。
◼︎子供達への教育、LGBTの就活について
石川:ReBit といえば、LGBT成人式が有名ですが、小学生向けの出前授業もしていますよね。最近の小学生や中学生の反応はどうですか?僕は10年くらい講演していますが、小学校は行ったことないんですよね。
関:子供たちはまだまだ「異性愛」でなければならない、という規範は持っていないです。
関西弁のゲイのメンバーが講師に招かれて行った時に「僕が結婚するくらい大好きな相手には誰でしょう?」と女性2人と男性2人の有名人の写真をみせたところ、子供達の多くはある関西出身の男性タレントを選んだんですね。「なんで?」と聞いたら「2人とも関西弁で楽しそうだからと」(会場爆笑)
石:男と女というよりは「話が合いそう」ということで選んでるんですね。
関:僕らも実際びっくりしたし、僕らのような当事者が実際に会いに行って話をすることっていうのは大事なんだなと思いましたね。
石:今月から就活解禁ですが、実際にLGBTとして就職活動をされた経験をお話ください。
関:僕はセクシャリティがトランスジェンダーのFtM、体は女ですが心は男。ホルモン注射や性別適合手術はしていません。レディーススーツを着ること自体は抵抗がなかったので、メンズスーツ、レディーススーツ両方で就職活動を行ったのです。メンズスーツで行って「トランスジェンダーなんです」と説明するのと、レディーススーツで行って何も言わないのと。使い分けて生きることは物理的・精神的にしんどいなと感じました。
就職活動の段階でカミングアウトする人、就職してからする人、しない人、いろんな人がいると思うけれど、自分でフラットに選べる、選択肢が減らない社会にしたい。Re:Bitの活動でもそういう話、セミナーをしています。
石:ちょうど過渡期なのかなと思う。僕たちの世代(40歳)だとゲイもしくはトランスであることをカミングアウトして就職活動をするのは考えられなかったです。最近は、外資を中心にLGBT向けの就職セミナーがあったり、少しづつ受け入れられるようになってきましたね。
チ:わたしは特にカミングアウトした覚えはないのに、みんな知っているという特殊なあれなんですが。セクシャリティに正論はない。
90年代に「アウンティング」(ばらす)というのが流行った。自分は言ったのに、あの人は言わないとか。人それぞれ事情があるのに、強制するのは違う考え方次第で、仕事とプライベートをきっぱり分ける人もいますね。
◼︎渋谷区のパートナー条例、同性婚について
石:受け入れる側もだいぶ変わってきました。この件に関して、世論調査でも賛成44% 反対39%。女性に限って言えば賛成50%反対30%です。意外と日本の社会は受け入れる社会になってきたと。今後の渋谷区の動きには注目です。
杉:「どうしてこれが突然出てきた?」と思っている人もいるかもしれませんが、長谷部健さんという渋谷区議が提案したのが発端です。彼とは10年前にグリーンバード(ゴミ拾いのNPO)での活動がキッカケで知り合いました。
当時、僕は「ダブルハッピネス」という本を出版し、まだその頃は「トランスジェンダー」という言葉が一般的ではなく、全国から「わたしもそうです」「だれにも言えませんでした」「会いたい」というメールが殺到していた。「グリーンバードという活動で掃除をしているのでいついつだったらそこに来てくれたら会えます」と載せたところ、たくさんのLGBTの人たちが集まってきたんです。
それを見て長谷部さんが、「LGBTってこんなにいるんだな!」と意識が変わったそうです。「こんなに身近にいるし、むしろふつうなのにこんなに困ってるのなら渋谷で何かできないかな?」と言い出したのが5年位前。「文野、渋谷で同性のパートナーシップ証明書みたいの出したらどうかな?」と言われて、僕は半信半疑で「そんなのできたらいいですけどね」と答えました。
その後、提案してくれていろいろあって、去年検討委員会ができて、さらに当事者の話が聞きたいと言われ、お会いしたら検討委員会の方々はほとんど年配の人ばかり。グッドエイジングエールズの松中権さんたちと一緒に話したら、「(自分たちと変わらない)こんなに普通の人なんだ、なのに困ってるんだ」とわかってくれたんです。慣れって言ったら変ですけど、会ったこともない人だと遠くに感じてしまう、水商売やタレントのイメージしかなく、LGBT当事者が身近にいることを体感するのが大事なんだと思いましたね。
石:映画のなかでも、同性愛カップルに対してちょっとした好奇心や誤解があったりしましたが、お互いに知り合うと解消できるもの。徐々に距離が近づいて行った時に、いろいろとサポートしようということになるしね。
山縣さん:私は17年カップルとして連れ添ってきました。これまでは特に問題がなかったけど、これから一緒に進んで行く時に、パートナーシップ証明書は勇気づけられます。条例が施行されれば使ってみたい。使わない人の方が多いとこの制度は必要なの?となるから、そういう意味でも使いたい。
石:LGBT活動をしている人たちは使うかもしれないけど、普通の当事者たちが「使えない」、注目を浴びすぎてが逆に使いづらくなるかも?といった問題も感じています。もっと良い方向で広めていきたいと思っています。
杉:僕はこの話が出てからひとつ問題提起したいと思っていて。「同性婚」だからトランスは関係ないんじゃないかと思われています。だけど、大いに関係あるんですね。
僕はトランスジェンダーだから戸籍上はまだ女。戸籍上は女子同士、見た目は男性と女性。恋愛感情も異性愛。「同性婚」が成り立てば戸籍の変更をしなくても結婚はできるけど、何が問題かというと、僕自身なぜ戸籍を変更していなかというと、トランスジェンダーの特例法で、戸籍変更の条件がいくつかあるんですけど、ひとつ生殖器を取り除いていること。僕は子宮卵巣摘出してないんです。胸を切ってホルモン注射をしている時点で今の現状の体で僕は満足しているですだけども、いいも悪いも、戸籍変更の手続きができるという選択肢を得てしまったが上に同性婚の条例ができない限りは、僕は彼女と一緒にいようと思うと、僕の生殖器を切れば彼女と一緒にいれるけど。
みなさん、どうしますか?
生殖器をきれば好きな人と一緒にいられる権利を得られる。でも特に切りたいと思っていない。そろそろ4年半もつきあったし、ということはそろそろ責任取らないとかな、ということはそろそろ切らないとな〜とか。(会場爆笑)
石:笑ってはいるけれど、体にも負担のかかることですしね。
杉:そうなんです、体にも心にもお金にも負担がかかりますから。制度に合わせるために体を切らなくてはならないという選択をせまられる毎日。この問題提起もしたいなと思っています。
石:そうなると同性パートナーの条例はトランスの人にとっても重要ですね。
杉:海外では戸籍変更の条件から性別適合手術を外す、どんどん無くなっている傾向なんですけどね。日本はなかなか進まないですね。
◼︎未来に向けて、5年後のLGBTはどうなっているのか?
石川:今回のシンポジウムでは、各世代、様々なセクシュアリティの方々に集まって頂きました。最後に一言ずつ、5年後の日本はLGBTにとってどんな社会になっていると思うか聞きたいと思います。
関:選択肢が減らない社会。なんでも選べる社会。なるべく近づけるようにしたいと思います。
倉:先ほど5年前にパートナーシップの話が進んだ印象を受けるが、日本は他の国に比べて遅れていて、5年ではそんなに状況は変わらないのではと思う。パートナーシップは施行されていてほしいけど5年では同性婚までいかないかなと。理想論です、いい味でも悪い意味でも特別視されなくなっていてほしい。こういう場に出るのはとても楽しいけど、こういうのもなくなってニュースでも報道されなくなることを願います。
杉:先に言われちゃいましたが。ただただ好きな人と一緒にいたいだけなんですと言ってることが、こんなに話題になっていておかしかったよねと言っていたい。5年ではむりだろうけど、「そういえば昔パレードやってたよね」言いたいですね。
山:東京で10万人規模のパレードをやりたい!まずは4月25日・26日の東京レインボーパレードにきてください。
チ:セクシャリティは大事なこと。表し方は人それぞれ。自分に嘘はつけない。5年後は東京オリンピック。イアン・ソープが去年カミングアウトしたけど、アスリートがメダルを取った時に、(場合によっては)同性同士でキスしてワイドショーで流れて日本のこどもが普通にみて、それが当たり前なんだと思ってほしい。特別扱いしてほしいのではなく「当たり前」の世界がいいな。
宮:(法律の世界での5年後)日本は宗教的障害が少ないので、ヨーロッパに比べて難しくないのでは?日本では男性同性愛が犯罪だった時代はない。法が変わる時は多数決、大多数の問題になること。実はマイノリティはマジョリティ。少数派が苦しんでいる時にいかに理解できるか助けられるのか。マイノリティ同士がいかに連帯、支援していけるか。他のマイノリティたちと連帯してマジョリティになれば法制度も変わる。
石:そう、みんなマイノリティ。お互いを認め手と手をつなぐあたたかい社会へ!
『パレードへようこそ』2015年4月4日(土) シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督:マシュー・ウォーチャス(トニー賞受賞)
出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト、アンドリュー・スコット、ジョージ・マッケイ、ジョセフ・ギルガン、パディ・コンシダイン、ベン・シュネッツァー