ジェンクシー編集部エディターの上地です。
昨年は『キャロル』『リリーのすべて』など、LGBT映画が豊作の年でしたが、2017年はどうでしょうか?
今回は、2017年1月~4月に公開中&公開予定のLGBT映画を、作品のレビューも含めて紹介していきます。
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エネルギッシュで痛快!全く新しい”トランス・コメディ”映画『タンジェリン』
全編iPhoneで撮影されたという、全く新しいトランスジェンダーコメディ映画『タンジェリン』。
ストーリーは、28日間の服役を終えて出所間も無いトランスの娼婦シンディ(キキ)が、留守中に恋人がノンケ女と浮気したと聞きブチ切れ!
親友アレクサンドラ(テイラー)が止めるも、シンディは彼氏を誘惑したビッチをブチのめそうと街へ繰り出す──。
同作は、実際のトランスジェンダー2人を起用し、LAで撮影された新感覚のトランス映画として大きな話題を集めました。
私生活でも親友同士のキキ&テイラーがLAの街中を走り回り、その様子をiPhoneならではの躍動感溢れるカメラワークで撮影。ダブステップの爆音BGM、2人が繰り出すFワード連発のマシンガントークが過激で面白すぎ!
エネルギッシュで爆笑できるのと同時に、実際に娼婦として働くトランスジェンダーたちの現実をリアリティ溢れる描写で描き出しており、そのバランスが絶妙です。
痛快にして爽快!爆笑の連続ながら、最後にはホロリと涙してしまうことでしょう。
本作は1月28日(土)より劇場公開中。ショーン・ベイカー監督のインタビューを収録したジェンクシーの記事も合わせてチェックしてみてください。
関連記事 >> 全編iPhoneで撮影!トランス・コメディ映画『タンジェリン』監督インタビュー
生田斗真がトランスジェンダー役に!『彼らが本気で編むときは、』
生田斗真がトランスジェンダー役を演じ、恋人役を桐谷健太が務めた話題のLGBT映画『彼らが本気で編むときは、』。
ストーリーは、トランスジェンダーの主人公リンコ(生田斗真)とマキオ(桐谷健太)の元に、母親の育児放棄で捨てられたも同然の少女が舞い込み、ちょっと変わった共同生活がスタートするというもの。
監督は、『かもめ食堂』『めがね』らで知られる著名映画監督の荻上直子による5年ぶりの最新作。
荻上監督といえば、その独特の作風から「癒し系監督」として女性やゲイから熱い支持を得ていますが、本作では持ち味である”癒し”を捨てており、「(本作は)逆に癒してなるものか!という気持ちです。もはや生ぬるいものを作る気など一切ありません」と語っているほど。
それだけに、トランスジェンダーやLGBTコミュニティを研究し尽くした、非常に丁寧な描写が散見されます。
また、初めてトランスジェンダーを演じたとは思えない、生田斗真の高い演技力にも驚きました。リンコの恥じらいや脆さの中に秘めた強い意思、それを支える恋人・マキオの存在。
荻上監督のこれまでの作風とは一線を画しており、かつLGBTコミニティーへのリスペクト、社会への新しい”家族のカタチ”を可視化してくれる素晴らしい作品です。
『彼らが本気で編むときは、』は2月25日(土)より全国劇場公開予定。
グザヴィエ・ドランの最新作『たかが世界の終わり』
オープンリーゲイの映画監督グザヴィエ・ドランの最新作『たかが世界の終わり』。
物語は、死の迫った人気作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)が12年ぶりに帰郷し、家族とのすれ違いをテーマにしたヒューマンドラマ。
ゲイの主人公ルイは、家族とは疎遠の状態。12年ぶりの帰郷では、母、妹、兄、義理の姉が彼を迎え入れるも、些細なことで言い争いになり、互いの気持ちがすれ違い、うまくかみ合わない──。
誰もが経験したことのある、親しき人、愛しているからこそ生まれるすれ違い。それらをすぐ修復できればよいものの、些細な溝は深さを増していくものです。
寡黙で内向的な主人公ルイは、都会では成功していて名声も地位もある。
そんなルイの姿は、都会に出て人生を謳歌しているも、故郷では本当の自分を見せられないでいるゲイたちと重なるのです。
前作『Mammy/マミー』の、色鮮やかでミュージックビデオのようなドランの世界観を期待している人には、少々テイスト違いに驚きますが、別の意味で深い共感と自己を見つめ直すキッカケを与えてくれる作品です。
『たかが世界の終わり』は、2月12日より東京・新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国で順次公開。
2017年ゲイ映画の大本命!心揺さぶる話題作『ムーンライト』
米『タイム誌』が、2016年のベスト映画第1位に選ばれた『ムーンライト』。
ゴールデン・グローブ賞にて作品賞を受賞し、アカデミー賞でもオスカー最有力候補と名高い今大注目の作品です。
ストーリーは、米マイアミの貧困地区で生まれた黒人男性シャロンの物語。
学校では「オカマ」といじめられ、家ではドラァグ中毒の母親から育児放棄をされている。
生活の中で行き場を失ったシャロンの救いは、父親代わりで面倒を見てくれる麻薬売人のホアンとその妻。そして、たった1人の男友達ケヴィンだった──。
映画のタイトルである『ムーンライト』は、「月明かりの下で、黒人の子は青色に輝く」という逸話をもとに作られており、作品のテーマカラーである『青』が、劇中のあらゆるシーンで登場。淡く、ときに鮮烈に輝く青の映像美が心を奪います。
主人公シャロンは、少年期、思春期、青年期と3つのパートを、3人の異なる役者が演じています。見た目やタイプ違いの3人ながら、「目で訴えかける」演技に引き込まれます。
貧困で家庭環境にも恵まれず、生きる意味が何かを知らず、そして愛に飢えたシャロンを通して、「人へのリスペクトとは何か」を、深く深く考えさせられます。
観終わったあとは、しっとりとした長い余韻に浸り、誰かにこの想いをシェアしたくなる、そんな作品です。
『ムーンライト』は4月より、TOHOシネマズシャンテ他、全国劇場公開予定。
番外編:過度な脚色を抑えたリアリティ溢れるゲイドラマ『ルッキング』
LGBT”映画” ではないですが、あの不朽の名作ゲイ映画『ウィークエンド』で知られるアンドリュー・ヘイが監督を務めた話題のゲイドラマ『ルッキング』。
本国アメリカでは『ゲイ版セックス・アンド・ザ・シティ』と呼ばれ、日本でも昨年末よりHuluにて配信スタートし、ゲイたちの間で人気沸騰中のドラマです。
これまでのゲイが登場する映画&ドラマといえば、イケてる女子と一緒にいるオシャレなゲイや、オネェ全開のゲイなど、誇張されたゲイが描かれてきました。
しかし、今回の『ルッキング』では、実際のゲイの監督、スタッフ、役者が手がけることで、過度な脚色を抑えリアリティに徹している点が画期的です。
『ルッキング』の見所については、ジェンクシーにて特集記事があるので、そちらも是非チェックしてみてください。
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