2018/03/10

盲目のゲイ少年の恋物語『彼の見つめる先に』監督インタビュー

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ゲイ映画『彼の見つめる先に』が、3月10日(土)より劇場公開する。

 

本作を手がけたダニエル・ヒベイロ監督のオフィシャルインタビューが届いたので紹介。

自身もゲイの監督が語る、作品に込めた想いとは?

 

 

 

 

【映画ストーリー】 
目の見えない少年レオは、ちょっと過保護な両親と、優しいおばあちゃん、いつもそばにいてくれる幼なじみのジョヴァンナに囲まれて、はじめてのキスと留学を夢見るごく普通の高校生。でも何にでも心配ばかりしてくる両親が最近ちょっと鬱陶しい。
ある日、クラスに転校生のガブリエルがやってきた。レオとジョヴァンナは、目が見えないことをからかったりしない彼と自然に親しくなっていく。
レオはガブリエルと一緒に過ごす時間の中で、映画館に行ったり自転車に乗ってみたり、今まで経験したことのない新しい世界を知っていくのだが、やがてレオとガブリエルさん、ジョヴァンナ、それぞれの気持ちに変化がやってきて…。

 

■どういった発想から、この作品を創り上げたのか?

 

「“盲目の人間が恋に落ちたらどうなるか?”という着想が出発点。視覚以上に、嗅覚や聴覚は、記憶を強烈に、そして一瞬にして呼び覚ますと思っているから、視覚によって、本来は鋭敏な嗅覚や聴覚が実はおろそかになるのでは?と感じていたんだ。そして、先ず視覚から人は人に惹かれるというのが通説だけど、“男性も女性も見たことが無い人間はどうやって自身のセクシャリティを定義するのか?”という点から、主人公レオナルドの人生を考え始め、彼のキャラクターを盲目であるだけでなくゲイの少年という設定にした。」

 

「ただ、レオナルドがゲイであることが大きな要素ではあることは間違いないし、同性愛も描いているけど、それは作品のメインのテーマではない。この作品で描きたかったのは、“盲目でゲイの少年が恋に落ちた”という事ではなく、“恋に落ちたのが、たまたま盲目でゲイの少年だったということ。世界を周り、“ゲイであるかどうか、盲目であるかどうかは関係なく、いつの時代どの国でも普遍的なティーン・エイジャー達の姿=喜びや悩み、葛藤、性の目覚めを描きたい”という目標を達成できたことを今は感じている。なぜなら、世界中で作品に対する好意的な声/反応は同じだったからね。」

 

■ともすれば重くなりがちでデリケートなテーマを瑞々しく軽やかに描いた作品という声が日本のマスコミからも多いですが、
作品を作る上で、意識した点や注意した点は?

 

「30代の僕がこの作品を創り上げる上で最も注意したのは、“10代の感覚/あの気持ち”を大切にするということ。キスが当たり前の30代とは違って、ティーン・エイジャーにとってファースト・キスは“世界最重要事項”だからね(笑)
そして、“恋愛はしたいけど、友情は壊したくない”という人生では誰にでもある/世界的に普遍なテーマも描きたかった。
レオ/ジョヴァンナ/ガブリエルを演じた3人の役者たちは素晴らしい直感と演技、そして3人が並んだ時の絶妙なバランスで、この作品にリアリティーと繊細さ、瑞々しい躍動感をもたらしてくれたと思う。キャスティングというのはまさに映画の肝で、いくら脚本を練り込んでも、役者同士の間に化学反応が生まれないと、作品に“生命”を吹き込むことは出来ないからね。」

 

「美術監督/撮影監督、そして僕の間で意識として共有したのは、世界観が重くなり過ぎないよう、原色は避けて全体的な作品の色味は暖かみのあるパステル調にし、照明もソフトさにこだわる事。初恋や初めての欲望、悩み・葛藤、青年期におけるあらゆる出来ごとを経験して行くティーン・エイジャー達の姿を、あくまでポジティブかつ開放的に描き、普遍的なストーリーを作りたかった。」

 

■自身の体験を投影した部分等は?

 

「僕もサンパウロで生まれ育ったから、自身の高校時代の生活なんかは自然に投影された部分はあると思う。それと、僕自身は
両親に自分がゲイであることを中々カミング・アウト出来なかったんだけど、ある時、母の方から“そうなんじゃないか?
(あなたはゲイなんじゃないか?)と切り出してくれたんだ。だから、作品中でも、はっきりとした言葉は使っていないけど、母親は
レオナルドのセクシャリティに気付いていることを示す会話を描いているよ。」

 

 

ダニエル・ヒベイロ監督

 

■メインの3人の演技/アンサンブルが素晴らしいが、キャスティング/彼らの演技について。

 

「レオナルド役のジュレルメは本作の習作=2010年に作った『今日はひとりで帰りたくない』(I Don’t Want to Go Back Alone)撮影当時、14歳だったんだけど、それ程多くの説明をしなくとも最初の段階から、盲目というキャラクター設定に対して、見事な演技を見せてくれた。14歳という年齢でそれが出来るのは驚異的なことだよ。彼は非常に“直感的な”役者だね。

 

ジョヴァンナ役のテスは当時16歳。幼馴染という設定のレオナルドとジョヴァンナの関係性/雰囲気が作品にとって先ず重要になるから、ジュレルメとのマッチングを試したんだけど、二人は並んで喋り始めると本当に昔から知り合いの様だった。
彼女はとてもFUNNY(面白い)キャラクターの持ち主で、三角関係の微妙な位置で重く沈みがちになっても仕方ないジョヴァンナというキャラクターに軽やかで飄々とした魅力をもたらしてくれたと思う。

 

ガブリエル役は中々決まらなかったんだけど、知人の紹介でプロの役者ではないけど、ジュレルメ&テスと合うんじゃないかと、当時21歳だったファビオを紹介されたんだ。結果的に、既に本当の幼馴染の様に仲良くなっていたジュレルメ&テスの輪に加わったファビオのシャイな雰囲気/佇まいは、まさに転校生のガブリエルそのもので、最後のピースがしっかりとハマった感じだったね。」

 

■全編、印象的な音楽の使い方について

 

「僕が大学時代に初めて聞いて、凄い衝撃を受けた想い出の曲=ベル・アンド・セバスチャンの“トゥー・マッチ・ラヴ”は脚本段階から絶対に使いたかった。それと、レオナルドはおばあちゃんの影響でクラシック好きという設定だから、ベル・アンドセバスチャンとクラシック音楽のMIXというのが最初のスタイル。そこにスタッフが当て込みでブラジルのPOP SONG等を加えていったんだけれどそれがとても良くて、結果的には全ての楽曲がこの作品の世界観にマッチし、この作品の世界観を象徴する形になったと思ってるよ。」

 

■作品で象徴的に描かれる、レオとガブリエルが自転車で疾走するシーンへ込めたメッセージとは?

 

「自転車は、独立の象徴で自立のシンボル。自力でどこまでも行けるという、自由への希求という意味で描いたシーン。この作品の製作段階で沢山のティーン・エイジャーが主役の映画を観たけど、殆ど全てのそういった作品に自転車が登場していた(笑)
自立を求める主人公レオの内面を描くにはふさわしいと思ったんだ。だから、エンディングは、レオにとって特別な意味を持つシーンになったね。」

 

■例えば、レオとジョヴァンナの様な幼馴染の絆がやがて恋に発展する/もしくはレオとガブリエルの様に、突然の出会いが恋に発展するこの作品は2つのタイプの≪FALL IN LOVE≫の可能性を描いていると思うが、監督にとってよりオススメの≪恋の落ち方≫とは?

 

「(笑)”恋に落ちる”っていうのは、これは理屈を超えた”突然起きる脳の化学反応”みたいなもので説明できないと思う。幼馴染がやがてお互いの恋心に気付く様な”熟成”の恋もあると思うし、”会った途端に一目惚れ”の様な瞬間で突然の恋ももちろん。ただ、思うのは、“自分の知らない世界を見せてくれた瞬間に恋に落ちる”ということはあるだろうなという事。例えば、この作品で、ガブリエルがレオを映画館に連れて行くシーンは、目が見えないレオにとっては今まで経験したことない世界にガブリエルのおかげで触れることが出来たという意味で、特別な感情が生まれる瞬間を描けたと思っているね。」

 

 

 

■2度目の来日で、日本が好きという監督にとって、日本とブラジルの違いとは?

 

「2014年の上映(SKIPシティ映画祭)で、上映後、日本の観客の反応が余りに静かだったので少し不安になったけれど(笑)、
感想を聞いたら、世界各国の人達と作品への感想は同じだったから安心したよ(笑)
確かに、日本の人達はちょっとシャイで、僕らの様に自然にハグをしたりは余り無いよね(笑)でも違いより、同じだなと感じることの方が多い。それは、人情って言うか、困っている人を一所懸命助けてくれようとする姿とか、他人を尊重するっていう部分で凄く感じるよ。」

 

■この作品をどんな人達に見て欲しいか?

 

「国や性、年齢を超えて、”誰もが経験する/経験した、ティーン・エイジャーのあの人生の黄金期”=普遍的なテーマ/感情を描きたいと思っていたから、全ての人達に見て貰えたら嬉しいけど、特に、ティーン・エイジャー、これから”初恋を迎える””自分を探し始める”人達に見て欲しいな。そして、他の上の世代の人達には、この作品を見て、”初恋やファースト・キスのあの感覚、エモーション”を想い出して貰えたら嬉しいよ。」

 

 

 

『彼の見つめる先に』は、2018年3月10日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開。

 

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