ーあなたにとって愛とは何ですか
うん…愛でしょ、愛ねぇ… 綺麗に纏められないんだけど、沈黙すら共有出来る事かなって思うことがあって。ウチはほぼ会話が無いんだよね。何にも言わなくても不安にならないというか、意思疎通は出来てるっていうか。俺は常に話してないと落ち着かないタイプなんだけど、彼とはそういうの無いんだよね。大体アッチは家に居ても、若い子相手にツイッターしてるしさ(笑)
出会ったのは大学のサークルで。当然、彼がゲイだっていう認識もなくって、ただの同期で同じサークルの人ってだけで。その時にお互い割と面白い奴だなってなって友達として付き合うようになっていったんだけど、俺が徐々に恋心を募らせていったって感じかな。
ある日のスキーサークルの合宿で同じ部屋になってさ、まぁ年頃の男の子達だから下ネタとかになるじゃん。一週間もずっと誰かが部屋にいる状態で、どうやって処理してんの?みたいな話になったんだよね。その時、彼はあんまり一人でするのは好きじゃないって言っててね。俺は一人でするの大好きなのね、だからそんな人いるんだって思ってさ。その話の流れで、自分は友達としたことがあるって話になったの。うそ?男同士で!?って(笑)
そんなの聞いたら悶々としちゃうでしょ。で、彼が「合宿終わったら一緒にする?」って「え!?」って。下心のある感じじゃなくって、本当に無邪気に誘われたんだけど、そういう軽い感じで詮索する感じも無かったんだよね。だからこっちも、それまで一生懸命檻を作ってたのにアッサリと開けられちゃった感があって。なんか普通に「うん」って返事しちゃって。当然興味もあるし。
それが起爆剤だったよね、それこそ今までに○○君が好きって気持ちは有りつつ抑えられて来てたんだけど、でもそれも限界値を超えつつあったの。で、そんな状況でしょ。とにかく言わないと気が済まない!って状態になっちゃったんだよね。これは言わないと、俺の頭がおかしくなるって。で、大学を辞める覚悟で気持ちを伝えたんだよ。だってカミングアウトしてしまったら、この世の中から抹消されるって思って生きてたし。
もうね、覚悟した割には凄い言い訳がましかったと思う(笑)
気持ち悪いと思うんだけど、とにかく凄く好きなんだよねって、友達とかじゃなくて世の中の普通の男が女に対して好きって思う気持ちと一緒なんだよねって。もう今の言葉も忘れてくれて良いから、お前の前から居なくなるから!って、必死すぎてあまり覚えてないんだけど。そしたらヤツは「別にそんな風に考えなくてもいいんじゃない?そういうのもアリだと思う」って、想像もしてなかった返事が来てさ。「気持ちは解った、これからも一緒に居よう」って言ってくれたんだよね。その時に全身の力が抜けたのと、これまでに味わったことの無い安堵感があったのだけは鮮明に覚えてる。
それからは大学の同級生だし同じサークルだからさ、二人でいても不自然に思われないってのもあって。何よりも、隣には自分を知ってる人が居るってだけで全然気持ちが違うよね、安心感というか。これ以上何も要らないって、でもこれだけは失いたくないって思ってた。だから他に目が行くことなんて全くなかったよね、そんな状態が10年くらい続いたかな。その後は、さっき話した通り(笑)
結果として、20年ずっと一緒に居たって事が前提になっちゃうんだけど、きちんと向き合うことかな。目を逸らした事が無い気がするのね。別れようと思ったことは一回も無い。
そもそも自分を想ってくれる人ってそんなに居るワケじゃないって思ってて、でもヤツは20年も一緒にいてくれて、この人は奇跡みたいだなって。だから絶対に無下にできないって。そりゃ生活してりゃ腹の底から煮え繰り返ることもあるけど、離れたいと思ったことは一度も無い。
慈愛みたいな話になっちゃうんだけど。 喜怒哀楽全てにおいて、目を逸らした事が無いのね。それはやっぱり、愛がないと出来なかったんじゃないのかなって。その人の全てを見たいと思うんだよね。見ようって景気付けるんじゃなくて、見たいと思う。で、その相手はやっぱり今のパートナーしかいなくて。その気持ちが愛なんじゃないのかなって、今結果的に。定義づけるとしたら、それが愛かなって。自分の経験上。
とかくこの世界ってさ、くっついては別れってのが一般的な男女よりは激しい感は有るんだけど。そういう人達は、お互いの良いとこ取りしかしようとしてないのかなって。相手が楽しい時とか嬉しい時とかその逆もだけど、横に居てくれるのは当然だと思ってて。見たくない臭いものに向き合わなきゃいけない時もあって。それが外からの問題で、二人で向き合える時は良いんだけど。そういう時だけじゃなくて、自分の相手が臭いものになる時もあるんだよね。
幸か不幸か楽しいことも出会いも溢れてるじゃない、今は。そういう時にこの人じゃ無理って目を逸らして、綺麗で楽しそうな方に目がいっちゃう人が多いんじゃないのって。でもその臭いものに相手がなった時に、それを見て自分ならどうしたらいいか、その汚い臭いものが、どうしたらもうちょっと気持ち良くなるのかって考える方が楽しい。綺麗なだけとか美味しいだけとかだと、俺は飽きちゃうな。そんなの誰でも好きでしょ、ほっといても。でも汚なかったり臭いものってテレビとかでも大々的には流れないし、せいぜい流れたとしてもモザイク入ってたり。でも、そういうところも含めて全部を見たいんだよね、可能な限り。
それは誰に対しても出来る事じゃなくって。
本能でそうしようと思える相手が俺の愛の対象であり、そうしたいって自然に湧き上がる気持ちが俺にとって、愛と言われるモノなのかなって感じてる。