映画「シングルマン(2009年)」から7年。
新作「Nocturnal Animals(原題)」を製作し終えたトム・フォードが、新作についてのインタビューで、自身の鬱や自殺願望との闘い、そして「お金と幸せの関係」についての気づきなど赤裸々に語った。
トム・フォードの一作目である「シングルマン」は、中年のイギリス人教授が長年連れ添った最愛の恋人の死を受け入れる物語だが、二作目の「Nocturnal Animals」は一作目と打って変わって、物欲にまみれた空虚な人生に、生きる意味を模索する女性、スーザンの物語だ。
「スーザンは、まさに僕なんだ」とトム・フォードは言う。
「スーザンは、欲しいものは全て持っているのに満たされなくて「大切なモノは他にある」って気づくんだ。ちょうど7、8年前の僕みたいにね。彼女は、僕の生きる世界と同じ世界でもがいているんだよ。ものすごくお金持ちでモノに溢れているのに、空っぽな世界で」
「人生って「掴みどころのない幸せを手にいれるための満たされることのない終わりのない旅」と捉えることもできると思うんだ。だって、僕たちが信じている「お金持ちになることや欲しいものを手にいれることが幸せ」というコンセプトって破綻していて、それを求めている限り誰も幸せにはなれないんだから。これを買って、あれをやって、この家を建てれば幸せになれるなんて法則はないんだ。人生っていうのは、幸せで、悲しくて、悲劇的で、喜びに満ち溢れて…幸せだけじゃなくて、いろいろな性質を持っているんだ」
フォードは、今日抱える不安、過保護な親に育てられた幼少期から抱えている不安についても振り返った。
「僕は「何か悪いことが起きるんじゃないか」という恐怖を絶えず感じながら生きているんだ。この恐怖と共に生きることは、すごく消耗するし、緊張するし、結果不幸せにもなりかねないよ」とフォードは言う。
フォードは現在ロサンゼルスに夫と4歳の息子と住んでおり、幸せに生活しているというが、フォードいわく、この平穏で幸せな生活は努力によって勝ち得たものだという。
「8歳か9歳の頃にはすでに自殺願望があったね。そういうのって遺伝なんだよ、アルコール依存症のようにね。僕はアルコール依存症とも闘ってきたけど」
フォードは、現在はお酒を絶ち、鬱のチェックも頻繁に行っているという。それでも、ネガティブな思考に囚われてしまうことがあるという。
「死について常に考えているよ。死について考えない日は、一日も、いや一時間もないんだ。そういうことを考える風に生まれたんだと思う」
フォードの発表するファッションは常に大きな利益を生み、大成功を収めてきたが、最近の彼の興味はもっぱら映画にあるようで、話題がファッションに変わるとフォードは少し冷めて見えた。
これまでファッションや映画など、数々の成功が語られてきたフォードだが、彼には鬱や自殺願望など決して明るくはない面もあり、きっとそのどれもがトム・フォードなのだろう。
フォードの新作「Nocturnal Animals」は現在、映画祭で公開されている。