この映画では『カミングアウト』について描かれていますが、監督はこのカミングアウトについてどうお考えですか?
実は、この映画は『カミングアウト』をテーマにしたくなかったんです。カミングアウトと一口に言っても人によってレベルは様々。カイは母親にカミングアウトできなかった、それをリチャードが母親にカミングアウトした。どちらが正しいか正しくないではなく、複雑な感情が入り混じっています。うまく表現できないですが、カミングアウトは本当に難しいしパーソナルな問題です。
よく考えると、そもそもカミングアウトって行為自体がおかしな話ですよね?(笑)
ストレート達は「僕はストレートなんだよ。だから受け入れて欲しい!」って、自分のセクシャリティーを周囲にカミングアウトしないのに、LGBT達はカミングアウトするって、何だか自分のことを変な人だと伝えているようなもの。
答えはないですが、カミングアウト問題は極めて難しく、デリケートであることは確かです。
監督はゲイを公言していると聞いていますが、自身の母親にはカミングアウトされたんですか?
私は母にカミングアウトしていますね。親にカミングアウトする時は胸が爆発しそうなほど緊張しましたが、いざしてみると、母はあっけらかんとしてすんなり受け入れてくれました(笑)
しかし、カミングアウトはする方もされる方も簡単にいかないということは分かっています。本作を見て、カミングアウトの葛藤や難しさを肌で感じてもらえたらと思います。
今年に入り日本では、ようやく社会がLGBTを受け入れつつあります。日本のLGBTコミュニティーに対して何かメッセージがあればお願いします。
この映画は特段ゲイをテーマに作った訳ではないのですが、LGBTコミュニティに対してのメッセージ性も含んでいます。一番大事なのは、ゲイかどうかではなく「自分が自分自身であることの自由」なんですよね。
この映画では、ステレオタイプのゲイをカリカチュア的に表現している訳ではなく、どこにでもいる”普通なゲイ”として描いています。私は映画を作るポリシーとして、”普通なゲイ” を “普通に描くこと”が大事だと思っています。
ゲイコミュニティにとっていえば、10年前は同性婚なんて不可能でした。しかし今では、世界中のあらゆる国で同性婚ができる、素晴らしい進歩だと思っています。日本でも初の同性パートナー条例が出来たと聞いて、大きな一歩を踏み出したのだと感じています。
LGBT関係なく、人々が違いを受け入れる寛容さを持ち、今よりも素晴らしい世界になれることを期待して、これからも作品を作り続けたいですね。
『追憶と、踊りながら』
2015年5月23日(土)より、新宿武蔵野館、シネマ・ジャック&ベティほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ホン・カウ
出演:ベン・ウィショー、チェン・ペイペイ、アンドリュー・レオン
イギリス映画|2014年|英語&北京語|カラー|1:2.35|5.1ch|86分|DCP
(c) LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014