ゲイの歌人、史上初の短歌賞に「ゲイを描くことで、社会全体を描いた」

September 29th, 2017

寺山修司らを輩出した歌壇の登竜門『短歌研究新人賞』を、オープンリーゲイの歌人、小佐野彈さんが受賞した。

 

ゲイをオープンにした歌人としては史上初の受賞となり、受賞作もゲイコミュニティ、LGBTをテーマとした作品になっている。

 

今回はそんな小佐野さんに、受賞後の独占インタビューを行なった。

 

 

 

小佐野彈(歌人、会社経営)
東京都出身、台湾・台北市在住。
大学院在学中、京都の抹茶店「辻利」の海外展開を行う会社を起業。全世界約30店舗を展開。現在は台湾と日本を行き来する生活をしながら、歌人としても短歌を発表している。歌壇の登竜門とされる『第60回 短歌研究新人賞』に、オープンリーゲイとして史上初めて受賞した。

 

 

──今回オープンリーゲイで史上初の『短歌研究新人賞』受賞とのこと、おめでとうございます!受賞作はゲイコミュニティをテーマにしており、当事者から見ても非常に共感できる内容でした。

 

ありがとうございます。

今回受賞した『短歌研究新人賞』は応募4回目での受賞ですが、これまで一貫して「セクシュアリティ」をテーマとした作品で挑んできました。

ゲイである自分自身のことや、HIVにまつわること、ゲイ、LGBTコミュニティにまつわるテーマを扱ってきました。

 

今回オープンリーゲイとしては初めての受賞ですが、ゲイの歌人自体は少なくないと思いますが、オープンリーゲイという点では僕以外だと鈴掛真さんだけだと思いますね。

 

 

──短歌をはじめたキッカケは何だったのでしょうか?

 

中学時代にさかのぼりますが、将来芥川賞作家となる女性と同じ学校だったんですよね。彼女は一つ下の後輩で、唯一心が許せる相手でした。

 

当時、彼女と文通する仲だったのですが、恋愛感情は芽生えなかったんです。

そんな中、私が中学1年生のとき美術部の同性の先輩に惹かれるようになりました。

 

それまで彼女とずっと文通をしていましたが、彼女に対しての感情は恋愛とは少し違って、美術部の先輩に対しては恋愛感情があってと、自分の心の中にアンビバレントな感情が生まれていた。

 

そして中学2年の時には、自分の性的指向がだんだんと分かってきました。

 

しかし、学校内では同調圧力が大きかったんです。

特にいじめられたわけではないですが、周りとは常に距離を感じていました。

中学時代は、真綿のようなゆるやかな地獄だった、と言えるかもしれません。

 

そんな時、俵万智さんの歌集『チョコレート革命』が発売され、その本に出会ったことで運命が変わりました。

 

学校の帰りに書店に入り、平積みされた本をパラパラと見た時、「あ、短歌ってこんなに自由なんだ」と思ったんです。

 

本の内容は官能的な不倫の話。

中学生の僕にとって実感は伴っていなかったけど、短歌に対しての価値観が変わった瞬間でした。

 

当時、家族も含めてセクシャリティのことは誰にも言っていなかったですし、また家庭の事情もあって、子供ながらに色々と背負っているものが大きかった。

「自分とは?」「セクシャリティとは?」について悩んだ多感な時期に、俵さんの作品に出会って「ああ、こういう自由な世界があるんだ」と思ったんです。

 

日記などの散文って嘘がつけないので、誰かに見られたら怖い。かといって小説だとボリュームがあって難しいし、ということで、短歌なら表現しやすかった。

 

授業中にふいに襲ってくる辛さや寂しさを、短歌なら表現できるんですよね。レトリックを駆使しながら、直接的な言葉を使わなくても表現ができた。国語の教科書を57577の短歌でびっしり埋めていきましたね。

悩める思春期に、短歌だけが自分を映す鏡だったんです。

 

 

──小説などに比べて、短歌になじみのない方も少なくないかと思います。短歌の魅力とはどういう所でしょう?

 

小説やエッセイには起承転結がありますが、短歌にはオチがあってはいけないんです。読者に判断をゆだねなければいけない。

これは、有名な歌人の故・河野裕子さんがおっしゃっていたことですが、短歌ってドーナツみたいなもので、大事な部分である真ん中をぽっかり空けて作るんですよね。

そういった意味では1文字の密度が濃い。それが短歌の命であり、魅力だと思いますね。

 

今回の『短歌研究新人賞』では30首の連作が応募規定なのですが、その30首の中はもちろん、行間にもストーリーが詰まっていて、小説にすると300ページ分を詰め込んだようなイメージです。

 

 

──小佐野さんや他の受賞作をみていると、今の時代を反映した短歌が多いことにびっくりしました。親しみやすいテーマが多いんですね。

 

そうですね。

短歌は私性(わたくしせい)と切り離すことがなかなかできないんです。

小説はフィクションを前提に読まれますが、短歌はノンフィクションを前提に読まれることが多い。

なので、短歌は現代のアクチュアルな問題を切り取ったものが多いです。

 

 

──ということは、基本的に実体験をベースに作られているんですか?

 

基本的には作品のウラは明かさず、読者にゆだねたいという思いがあります。

ですが、これだけは言えるのは「嘘はついていない」ということですね。たとえ事実でなかったとしても、嘘はついていません。「事実」ではない部分があったとしても、「真実」はあると思っています。

 

もちろん、ほとんどの歌は自分の実体験や自分のコミュニティ内で起こったことをベースにしています。

 

世の中って、嘘みたいな本当のことって結構あるんですよね。

映画とかドラマの世界だなと思っていたことが、意外と現実に起こり得てしまう。

 

なので、完全なフィクションは強いシンパシーを感じにくいと思っていて、僕の場合は体験や実感に基づいて作っています。

 

 

──受賞作30首の中で、もし一番好きな歌を選ぶなら?

 

そうですね…。難しいですが、タイトルにもなっている一首は一番好きですね。

 

「どれほどの量の酸素に包まれて眠るふたりか 無垢な日本で」

 

この歌に登場する「酸素」って、実はマイノリティなんですよね。大気の中のマジョリティは窒素なんですよね。

それ以外にも、いろんな読み方ができる歌ですし、今回の30首を象徴する歌だと思っています。

 

 

*『短歌研究 9月号』では、受賞作「無垢な日本で」の全30首が見れる。

 

先ほど「短歌には起承転結があってはいけない」と言いましたが、この「無垢な日本で」は、良くも悪くも、ある程度起承転結のあるストーリー性を意識した作品にしています。

 

──受賞作30首は、テーマが幅広いですよね。LGBT権利の問題からHIVなど、コミュニティ内の様々な問題を扱っています。

 

そうですね。本当に自分自身の恋愛のことから、コミュニティの問題まで、幅広いテーマを扱いました。

 

作品全体としてLGBTコミュニティの実感に近いっていうのはありますが、今回評価していただいたのは、「マイノリティの世界を描くことで、マジョリティの世界のいびつさを描いた」点だと思っています。

 

LGBTコミュニティの内輪話だけでなく、コミュニティを観察することを通じて、マジョリティの社会のことを歌った。そういう部分を評価してもらえたという実感があります。

 

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